さて、撮影までの待ち地時間。
仕事前の一服に向かった喫煙所にて。
「あーいたいた。井ノ原くん」
「んー?おー剛。おっは〜」
「うぃ〜っス」
にかっと笑って八重歯を見せたのは剛である。
彼は喫煙所のイスに座って煙草をふかしている井ノ原の前まで歩み寄ると、急に何やらズボンの後ろポケットをごそごそやり始めた。
「おい、どーかしたのか、剛」
「ん〜・・・ん、これ」
「んあ?」
「誕生日プレゼント」
「ちょっとちょっとぉ、もしかしてこれって・・・」
微妙なデジャヴを感じつつ、剛がそう言って目の前に差し出して来た物をじっと凝視してみれば、ズボンのポケットに入れていたせいで少々よれよれになってしまっているそれは・・・
「健が初心に返ってっつーから、肩叩き券」
「・・・そーか、健ちゃんの入れ知恵か」
やっぱりね、なんて言って覚える脱力感。
まさかメンバー六人のうち二人から誕生日プレゼントで所謂初心に戻った結果の券を貰うことになるとは。
しかも剛の券はメモ用紙に『肩叩き券』と剛の字で殴り書きされたものをホッチキスで留めてあるだけの代物で。
正直何の考えもなく、しかも券もものっそい手抜きで作ったみたいに見えるんですけど・・・
「誕生日おめでとう。つーか喜べ!」
「・・・強制?」
どうしてカミセン(というか剛健コンビ)はこうも尊大なのでしょうか、神様。
井ノ原がつい神に祈りかけたら、剛がうひゃひゃっと笑って胸を張った。
「券の出来より肝心なのは俺が肩叩きすることなんだよ!この剛くんが肩叩きすんだからちょーレアだぜ?」
「あ〜まぁそれは確かになぁ。けどなんか老人扱いされてるようで正直複雑なような・・・」
「うひゃひゃ♪これで三十路リーチだもんな、井ノ原くん」
「それを言ってくれるなよぉ剛ちゃん!」
「うひゃひゃ♪」
来年でとうとうトニセンが全員三十路突入なわけよぉ、どうすんの!などとぼやいてみせれば、剛はまたうひゃひゃっと独特の笑い方をしてカミセンはまだぴちぴちだから〜♪などとのたまう。
・・・このヤロウ。
「けどよぉ、俺坂本くんより岡田との方が歳近いんだぜ?」
「肝心なのは年齢差より三十路に近付いたかどうかなんだって。あっ、そーだ。健のプレゼントって結局なんだった?俺知らねぇんだけど」
「くっそ〜なんか腑に落ちねぇ・・・ほら、これよ」
「んー?」
拗ね顔の井ノ原を完全に無視して、どれどれ・・・と興味深々な顔で井ノ原が差し出した健作の『一日俺が甘えてあげます券』を見る剛。
そんでもって嫌〜な沈黙が降りてきたりして。
「・・・これ、貰って嬉しいわけ?」
ひっじょーに微妙な顔になってますよ、森田サン。
いや、その気持ち分からんでもないけども。
そうは思いつつ、しかし井ノ原は先に健に答えた通りの言葉を剛にも返す。
「嬉しいよ。あ、もちろんお前のこれもさ」
なんだかんだ言っても、プレゼントをくれようと思ってくれた心遣いが嬉しい。
それに肩叩きしている剛の姿を思い浮かべれば、それはやっぱり微笑ましいものなわけで。
「ふーん」
素直に嬉しいと言われて照れた顔の剛は、なんでもない素振りをしてそう返す。
やっぱり井ノ原は健の時と同様に、いつも以上の笑顔を意識して。
「ありがとな、剛」
と、ちょっと照れつつ言ってみれば、
「・・・どういたしまして」
そう答えた剛は満足そうに無邪気な笑顔を向けてくれた。
■□VS.20th Century