「…ねぇ坂本くん」
「あ?」
「なんか、今日みんなおかしくない?」

さすがに疑問が山のように積み重なったので。
収録を終えて楽屋に戻った俺は、残る一人へとその疑問をぶつけてみた。
今日あった一連の出来事を話してみると、その相手…坂本くんは何故かきょとんとした顔で俺を見返してくる。
「坂本くん?」
「なんだ、お前自覚なかったのか?」
「え?」
予想外なことに。
坂本くんはあきれた様な声でそう言う。
「え?何?もしかしてあれって俺に原因があるの?」
本当に全く意味が分からなくて首を傾げたら、渋い顔をした坂本くんがすっと手を伸ばしてきて俺の額にぺたりと触れた。
「…んー38度行ってるか?もしかして」
「へ?」
「てっきり俺たちに気をつかって言わないのかと思ってたんだけどな。まさか自覚がないとは」
「あのー坂本くん?」
「長野」
「はい?」
「お前思いっきり熱あるぞ」
「へ?」
…熱?
いやいや、まさかそんなはずは…
反論しようと思ったら、それより先に坂本くんが俺の腕をつかんで額に手を当てさせた。
…んーと?
「あっつい…かな?」
「かな?じゃなくて熱いんだって。あーお前自体体温上がってるからわかんねぇのか」
しょうがねぇな、と言った坂本くんは、どこから取り出したのかデジタルの体温計を差し出してきた。
おお、なんて用意周到な。
「ほら、計ってみろ」
「う、うん」
有無を言わせない口調の坂本くんから体温計を受け取って、疑心暗鬼のまま熱を計ってみた所。

「……38度4分」
「ほらな」

…まさにおっしゃる通りでございました。
デジタル表示の数字をまじまじと見つめながら、予想外の数字に俺はついつい唸ってしまう。
「うーん全然気づかなかった…」
こんな高熱なのに、どんだけ鈍いんだよ俺…
しかも発熱を自覚した途端になんだか頭がふわふわしてきて、なんとも言えないあの感覚がやってくる。
急に立ってるのも辛くなって、俺は近くのソファに力無く転がった。
「…そっかぁーだからあいつらあのチョイスだったわけかぁ…」
飴玉にりんごに桃の缶詰。
良く良く考えてみると、それらは風邪の時の定番アイテムだ。
「おい長野?大丈夫か?」
「んー自覚したら一気にきた…でもなんとか、だいじょぶ」
「辛いならそのまま転がってろ。マネージャーにすぐ車出してもらうから」
そう言った坂本くんは携帯を取り出して早速マネージャーに連絡をした後、自分と俺の荷物を纏めにかかる。
さすがはリーダー、頼りになりますな。
「なんか、変にみんなに気を使わせちゃったみたいだね」
自分に自覚が無かっただけにろくにお礼も言えてないし、悪いことしちゃったなぁ。
「まぁ確かにあれはあいつらなりに気をつかったつもりみたいだけど、みんながみんな食いもんに走る辺りなんだかな」
苦笑する坂本くんに俺も同じく苦笑して返す。
俺ってどんだけ食のイメージが先行しているんだか。
まぁ本人としても否定は出来ないところだけども。
「あーそうだ、長野」
「ん?」
不意に思い出したようにカバンをがさごそやって何かを取り出した坂本くんは、ソファの前にしゃがむとそれを俺の目の前に差し出す。
「俺からはこれな」
「え?」
「良く効くぞ」
そんな言葉と一緒に手渡されたのは、買ったばかりと思しき薬の箱。
しかも。
「これの半分は俺の優しさで出来てるからな」
悪戯に笑って言われたその言葉どおり、その薬はそんなキャッチコピーの付いたあれで。
…ははは。
「それ笑うところ?」
「バカ、感謝するところだろ」
食い物じゃなくて悪いけどな、とまた笑った坂本くんは、ソファ前のテーブルに置いてあったミネラルウォーターのペットボトルを、ふたを開けてから差し出してくれる。
「ほら」
「ありがと」
その細かな心配りに感謝しながら、俺はありがたくその半分は坂本くんの優しさで出来ているらしい薬を飲ませてもらった。





■□a sense of happiness.