しょりしょりと、なんだかいい音がする。
口の中の飴玉がなくなった頃、耳に入ってきたその音に俺は再び雑誌から顔を上げた。
さっきと違って今度は誰かと視線が合うことも無かったので、音を辿ってしばらくふらふらと視線をさまよわせてみる。
と、楽屋の一角でなんだか妙に違和感のある光景を見つけて、思わず二度見した後にそれを確認した。
楽屋の隅に置かれた小さめの机。
その上にあるのはまな板と、良く熟れた真っ赤なりんごがいくつか。
そしてそれをしょりしょりとんとんさくさくと、いい音をさせながら切っている男が一人。
…って楽屋で何やってるんだ、あいつは。
「あ」
「えっ?」
不意に振り向いたそいつと目が合ったと思ったら急に声を上げたので俺もつい声を上げてしまう。
そいつは細い目をさらに細くして、にこにこ笑いながら俺を手招きした。
「何?」
「いーからいーから♪」
なおもしつこく手招きするそいつに負けて、渋々近づいて行ってみる。
「なんで楽屋でりんご剥いてるんだよお前は」
「まぁそこは深く気にしないで、はいどうぞ♪」
「え?」
言葉と共に俺の目の前に差し出されたのは、意外なほど器用に作られたりんごのうさぎで。
その可愛らしさが細目くんと妙にアンバランスでなんだか笑えるところ。
「いっぱいあるから遠慮なく食べてっvアタシの愛がたっぷりつまってるわよんvv」
「…なんか胸焼けが…」
「ってオイ!!」
そりゃねーよ!と返す細目くんはとりあえず無視の方向で。
受け取った爪楊枝の先にいる可愛らしいうさぎを見つめて、俺はまた首を傾げるしかなかった。
なんでりんご?
さっきの飴玉と同じく浮かんだ疑問は、今度は摩り下ろしリンゴに取り掛かり始めた相手からでは答えを得られそうになかったので。
蜜がたっぷり詰まって美味しそうなりんごのうさぎを、とりあえず俺はしゃくりとかじってみた。
■□Three Leaf Clover.