そう、最期の時までは。
「ナガノ、イノハラ、モリタ、ミヤケ、オカダ以上五名の祈りの天使を確認。悪魔サカモトも同行を確認。六人を強制連行する」
事務的な口調でそう言い放った神様の出した追っ手を六人は険しい表情で見遣った。
その顔には一様に不安、焦り、そう言ったものが見て取れる。
何処まで遠く逃げても、神様には全部お見通しなんだ。
六人の中の誰もがそう思い、悔しさに唇を噛んだ。
そして神様の手の中で踊らされている自分たちの滑稽な姿を嘲笑った。
もう、逃げ道はどこにもない。
いや、最初から逃げ道などはなかったのだ。
どこまで行っても、その道は幸せではなく神様の元へと繋がっているのだから。
「・・・どうしよう、ナガノくん」
五人の天使の中では最年長のナガノに中世的な外見の天使・・・ミヤケはそう問いかけた。
もちろん、返答を期待などしていない。
ただ言葉に出さないと、全てが絶望へと向かっていくような気がしてどうしようもなかった。
「・・・どうしようか」
逡巡の間を置いて意外にも返ってきた、答えとは言えない答え。
しかし微かに微笑んだナガノの瞳をじいっと見つめて、ミヤケはその奥に息づいている決心に気づいた。
・・・それは、揺ぎ無い、強いもの。
「・・・っ」
息をのんで瞳に複雑な色を浮かべた後、気づかれないようにちらりと悪魔・・・サカモトを盗み見た。
彼は追っ手を凝視したまま身動きもとれずに固まっている。
何せ彼は捕まればすぐさま処刑されてしまうのだ。
「・・・もう、いいよね?」
細目の天使・・・イノハラがこっそりとナガノにそう告げた。
その顔に、言葉に迷いはない。
ナガノはこくりと頷く。
そして確認を取る様に他の二人にも顔を巡らせた。
そうすればすぐに返って来る答え。
「・・・いいぜ、覚悟なら最初からしてる」
「かまわへん。それが今出来る最良の選択や」
小柄の天使・・・モリタと、冷静な声の天使・・・オカダも頷き、それを受けて決心したようにミヤケも頷いた。
「そうだね。・・・うん、俺もいいよ」
その言葉を皮切りに、五人の天使は一人の悪魔を守るようにその前に一列に並んだ。
「お・・・おい?お前ら・・・」
戸惑ったように、緊張した声が背中にかかる。
薄々彼は気づいているのだろう。
今、五人の天使が何をしようとしているのか。
「我らが主よ」
毅然としたナガノの声が、辺りに響いた。
「我ら、主の子である祈りの天使が最期の祈りを唱えます」
その言葉で推測は確信に変わり、驚愕をサカモトに与える。
彼らが今、何をするつもりなのか。
「おい・・・っ!!」
慌てて声をかけ、駆け寄ろうと試みる。
しかし五人の翼から強い光が放たれてそれが薄い皮膜のようになり、
サカモトを彼らの元へ近づけなかった。
「くそっ!!どうなってんだこれは!?」
焦り、苛立ち。
こうしている間にも五人の祈りは始まってしまっている。
最後まで唱え終わってしまえば、それを食い止めることはサカモトには出来ない。
「やめろっ!!頼むからやめてくれっ!!」
『我が主よ、我らの祈りをどうか聞き届けたまえ』
五人の声が折り重なり、翼から発せられる光がさらに強さを増す。
それは祈りの天使の祈りの力。
「やめろ・・・っ!!」
五人全員分の命を懸けた、最期の力。
「やめろぉ!!祈るなあっ!!!」
しかし、その願いは虚しく。
『どうか、サカモトくんに幸せを』
五人分の命をかけた祈りは神様に受理された。