荒野を行く。

荒涼とした大地に穿たれた弾丸は、渇いた音を立てて地面を抉り、弾けた。
タタタと連続して、しかし不安定に撃ち込まれるそれは、とある三人の男の背中を追っている。
けれどもそれが今一歩届かず地面で弾けるのは、男たちが颯爽と逃走を図っているせいだ。
まさに命の危険を感じるべき危機的状況であるはずなのにも関わらず。
どういう訳か、笑い合いながら。

「やっべー!あちらさんマジ本気だぜ!?どうすんだよ二人共っ!!」

三人の内、思うに一番年下であろう細い目の男が、唯一焦った口調でそう叫んだ。
けれども彼の焦りとは裏腹に、返って来たのは笑みが含まれた言葉で。

「まっさかサブマシンガン持ち出して来るとはな〜!しかもイングラムって、そのチョイスはねぇよなぁ!!」

サブマシンガン――銃声がやかましいので有名なイングラムM10だ――が弾を放つ音が響き続けている為、必然的に大声になってそう言うのは、三人の中で一番年上であろう強面の男だ。
彼は隣のもう一人に顔を向けて、なぁ?と同意を求める。

「確かに!しかも明らかに扱い慣れてないしね、あれ!初っ端反動で倒れそうになってたよ!!」

カンペキ素人だね、と笑うのは優しい面立ちに柔らかな声が特徴の男である。
イングラムM10と言えば、.45ACP弾が速射可能な、コンクリート壁もブチ抜く高威力のサブマシンガンである。
ただその高威力の反動はすさまじく、訓練した人間でなければ相当に扱い辛い代物でもある。
それを素人が持ち出せば、そりゃあもう散々な結果になるのは当然だった。
その一、反動が大きすぎて身体に負担がかかる。
その二、ブレの激しさで照準が合わない。
その三、そのせいで無駄弾を撃ちまくる。
その四、銃声が派手すぎて耳がおかしくなる。
その五、連射速度が速い為、弾切れもやたらと早い。
エトセトラエトセトラ・・・
けれども相手も半ば意地になって無闇やたらと撃ちまくって来るので、仕方なく三人は逃げ回っている次第なのである。

「ちょっと!!笑ってる場合かよ!?どーすんのよこの状況!?」

場違いなほど楽しそうな二人の会話に、焦れたように細目の男が割って入った。
実際、彼の言うとおり笑っている場合ではないのは確かなのだ。
有効射程は25mと短いものの、軌道の読めないイングラム相手では、下手な所で立ち止まるわけにもいかない。
かと言って走り続けるのにも限界がある。
頃合を見て反撃なり何なりしなければ、三人は仲良く揃って蜂の巣である。
そんな至極真っ当な細目の男の訴えに、しかし二人は変わらず余裕綽々で。

「おい、長野!」
「了解!」
「えっ!?なになに!?ってうおっ!?」

短い言葉とアイコンタクトだけで会話を交わすと、二人は細目の男の首根っこを同時に掴み、見えてきたモーテル目掛けて猛ダッシュした。

「ぎゃー!!うわ、ちょっと!!足!足がもつれるっ!!」
「うるせぇ!黙って走れ!!」
「もうちょっとの辛抱だから我慢する!!」

ぴしゃりと二人に怒られて、つい反射的に口をつぐんでしまったものの。
なんだか理不尽な気がするのは俺だけですか?
けれども不平不満を口にしたら更に怒られるのは目に見えていたので、男はとほほな気分になりつつも、とにかく必死で足を動かした。



**********



見えてきたモーテルはどうやら既に廃業して久しいようで、うら寂れて閑散としていた。
当然、荒れ果てた宿泊施設に人の姿はない。
その上、不法投棄された車がごろごろと転がっている為、モーテル内の見通しはすこぶる悪くなっていた。
つまり身を隠す障害物の多い現状は彼らにとって好都合だと言える。
全力疾走したことで相手との距離が開いているうちに、二人は細目の男を廃車の山の一番奥へと押し込んだ。

「お前はここに隠れてること」
「足手まといだからな」
「ひっでー!あんたらはいつもそれだよ!!」

不平不満を述べている細目の男は放っておいて。
二人は廃車の山を出ると、そこを背にして悠然と並び立つ。
それこそ顔には余裕の笑みまで浮かべてみたりなんかして。

「無傷で捕まえるのが条件だったっけ?」
「あぁ。面倒だけどな」
「ま、30秒かな」

にっ、と笑みを交わした二人は、同時にスーツの下に隠したホルスターから銃を抜き出した。
強面の男の手に握られているのはベレッタ社製のM92F――通称ベレッタ。
優しげな風貌の男の手に握られているのはS&W社製のM29――通称44マグナム。
ベレッタはスライドを引いて、44マグナムは撃鉄を起こして。
それぞれ弾丸のリロードを完了させる。

「来たぞ」

強面の男の言葉通り、標的を見失って何事かをわめきちらしながら、一人の男がモーテルの中へと入ってきた。
相変わらず無駄弾を打ちまくっては弾切れになり、慌ててマガジンの交換をしている。
一体いくつマガジンを隠し持っているのか、二人としてはむしろそちらの方に興味が引かれるところだ。

「次の弾切れで行くぞ」
「OK」

再び大きくなった銃声をBGMに、二人は耳打ちでそう言葉を交わすと、廃車の影に身を隠しながらそれぞれ別の方向に歩き出した。



**********



それから数秒後、イングラムは再びの弾切れを起こしてカキンと空撃ちした。
相次ぐ弾切れに男もさすがに苛つきを覚えたらしく、忌々しげに舌打ちすると、空になったマガジンを乱暴に外す。
そしてそれを乾いた地面に投げ捨てた…

瞬間。

耳を劈くような銃声が響き渡り、男の足元には土埃が舞った。

「なっ、なんだっ!?」

狼狽した男が慌てて地面を見やった時、次いで二発目の銃声が轟く。
今度は先のそれよりも幾分軽い音で、放たれた弾丸は地面ではなくイングラムの銃身に当たった。

「う、うわっ!?」

伝わった衝撃に男がたまらずイングラムを取り落とせば、ドォンと激しい音を立てて三発目の弾丸が再び乾いた地面に穴を開ける。
銃声の大きさから言ってこれは一発目と同じ銃から放たれた弾であろう。
見事に並んだ地面の穴がそれを確かに証明している。

「く、くそっ!なんなんだ一体…!!」

慌ててその場から跳びすさった男は幽霊でも見たような顔をして辺りを見回した。
けれども彼の視界に入るのは寂れたモーテルと廃車の姿ばかりで、自らを攻撃してくる相手の姿を確認することができない。
焦った男は慌てて懐に手を入れる。
そこには常日頃から持ち歩いているSIG SAUER P220がある。

が。

「チェックメイト」

時、既に遅し。
背後から楽しげな男の声がして、後頭部にはゴリッ…と硬質なものが押し当てられた。
確認するまでも無い。
拳銃だ。

「ひっ…!!」
「さぁ銃から手を離して両手を天高く挙げてもらおうか」
「こ、この…!!」
「おっと、下手な真似すると俺の相棒がアンタの頭をぶち抜くぜ?」

背後から伸びて来た指が指し示す方をそろりと見てみれば、モーテルの二階から柔らかな微笑を浮かべた男がひらひらと手を振っていた。
その右手に握られているのは、銃口が真っ直ぐこちらに向けられたM29。
対人戦には向かないとさえ言われる程の威力を誇る44口径銃を向けられては、流石の男もその指示に従う他なかった。








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TRASHブログより移動。
荒野の渡り鳥なアウトロートニ兄さんズを目指して。(なんのこっちゃ)
書きたいところだけ書いたのでなんとも中途半端です。(笑)
ちなみに微妙に修正済です。

ついでに銃の資料もくっつけときます。(笑)

M92F(リーダーの銃) M29(博さんの銃) M10 イングラム
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2010.03.12.Friday
Kohki Tohdoh Presents.
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