軍用ジープが忙しなく動き回り、整備されていない土と砂利の地面に轍を幾重にも刻む。
慌しく動き回るのは車だけではなく、それは人間も同様で。
無骨な銃器を携えた軍人たちがジープのエンジン音や、けたたましく響く銃声にかき消されないように大声で会話を交わす。
その喧騒は戦場独特のものである。
第二十区画。
別名、『特別危険指定区画』。
「う〜すっごい砂埃!!着くまでに砂まみれになっちゃうじゃん!マジ最悪!!」
一台のジープが盛大に砂埃を巻き上げながら、安全運転とは言い難いスピードで荒れた大地をひた走っていた。
乗っているのは三人。
その全員が十代後半から二十代前半と思しき見目のいい青年である。
そのうちの一人、後部座席に座した、特徴のある声に可愛らしい顔をした青年がむくれて口にした先の言葉に、助手席に座った、目に眩しいほどの金髪と鋭い眼光を持つ青年が迷惑そうに顔をしかめて言った。
「文句は上に言えよ。俺らに言われたって迷惑なんだよ」
「って剛ソレ冷たすぎない!?ねぇ岡田!!」
「健くん、もうすぐ着くからもうちょっとだけ我慢してて」
「なんだよお前まで俺がワガママみたいな顔してさ〜!!!」
運転席に座る岡田と呼ばれた青年は、彫りの深い顔に高い鼻梁と大きな瞳を併せ持った、まさに美形と言える顔立ちをしている。
長めの艶やかな黒髪を風に靡かせ、苦笑を口元だけに浮かべて、彼は後部座席の青年…健に、まぁまぁと宥める言葉をかけた。
「二人とも、仕事内容は把握してるよね」
話を変えようと岡田がそう振った話に、まず食いついたのは助手席の青年…剛だった。
彼は不機嫌を隠しもせずに、露骨に顔をしかめて吐き出すように言う。
「あくまで現場指揮官の補佐なんだろ?久しぶりに暴れられんのかと思ったら、マジつまんねぇ任務。なぁ、その現場指揮官の大佐ってヤツ使えんのかよ」
その言葉を受けて答えを返したのは健で。
「さぁどうだろ。左官クラスなのに現場指揮なんてやってるわけだし」
いわゆる窓際族ってヤツじゃん?などと軽口を叩いてきゃらきゃらと笑う。
一般的に、左官クラスの階級を持つ軍人は大統領府の軍本部にて執務を行うのが普通であり、非常時でもない限り現場に出ることはまず無いと言っていい。
それがどういうわけか現場、しかもその名の通り激戦場である特別危険指定区画に配属されていると言うのだから、その現場指揮官の大佐とやらに二人が疑問を抱くのも仕方のないことだった。
「二人とも、その話はそろそろやめにした方が。ほら…」
落ち着いた声で岡田が言い、指で指し示したその先は。
「第二十区画最前線司令部だ」
第二十区画最前線司令部。
「失礼します、大佐。来客中申し訳ありません。特殊部隊より援軍が到着しました」
藤ヶ谷中尉のその呼び掛けに、応えたのは室内にいた二人の男の内、部屋の奥に置かれたデスクにいた三十代前半の男の方だった。
強面ながら整った顔立ちに均整の取れたモデル体型をした彼は、この最前線司令部の最高責任者、坂本昌行大佐である。
彼は部下に視線を送ると頷いて返す。
「そうか。何人だ?」
良く通るハリのある美声の問いかけに対し、藤ヶ谷が返した声は色良いものではなかった。
「それが…」
答えを言い淀み、濁した語尾に続く言葉を彼が紡ぐより先に、その背後から、割り込むようにして聞こえてきたのは、思いの他若い声。
「三人だよ」
「えっ!?」
驚き、振り向いた藤ヶ谷を押しのけるようにして室内に入ってきたのは、その言葉の通り三人の青年だった。
その内の二人…眼光鋭くちらりと見える八重歯が特徴的な青年、剛と、男にしては妙に可愛らしい顔をした青年、健は不敵な笑みを浮かべ、上官の前だというのに敬礼すらする気配のないまま不躾な言葉を並べる。
「援軍は俺たち三人だ・け。ま、十分過ぎると思うけどな」
「正直、一人でも十分だと思うけどね」
「お、お前たち!大佐の前でなんという口の聞き方だ!!」
礼儀を弁えない言動に激昂する藤ヶ谷に対し、二人は平然とした顔で笑みさえ浮かべてみせる。
「悪いけど、俺たち郷に入っては郷に従えって言うのだいっ嫌いなんだよね」
「上司だろうがなんだろうが関係ねぇよ。俺たちが従うのは自分たちより強い人間のみだ」
「なっ…貴様ら…!!」
軍人とは到底思えない二人の発言に、とうとう懐のホルスターに手をかけた藤ヶ谷を止めたのは、低く落ち着いた声だった。
「安い挑発に乗るな、藤ヶ谷」
そう言って相手を一瞥したのは坂本である。
彼は一つ、静かに息を吐くと、デスクの上で手を組んで、鋭い眼光を真っ直ぐに剛へと向けた。
「随分自信があるようだな。それだけ言うには腕は確かなんだろうな」
「へぇ…ムカつくこと言ってくれんじゃん。なんなら見せてやろうか?あんたにっ!!!」
凶悪な笑みを浮かべた剛がそう吼えた途端、彼の元に眩いばかりの雷光が走った。
それはバチバチッと派手な音を立てて彼の周りでのた打ち回り、やがてその全身を包み込む。
「くっ…くそっ!!」
暴挙を阻止しようと藤ヶ谷が慌ててホルスターから拳銃を引き抜いたが、しかし。
その時には既に、剛は床を蹴って部屋の奥へと疾風の如く翔けてしまっている。
彼は身に纏った雷光をいつの間にか右手の拳に集中させて、それを坂本目掛けて放とうとした。
が。
「…なっ!?」
「剛!?」
驚愕の声を上げたのは坂本ではなく、剛と健の方だった。
「…全く、礼儀がなってないなぁ、君たち」
場にそぐわないほどの穏やかで落ち着いた声が、静かに言葉を紡ぐ。
それは先からずっと、坂本の机の前に立っていた人物から発せられたものだった。
そして驚いたことに、その彼の手によって剛の右腕はしっかりと捕まえられてしまっていた。
身に纏っていた雷光までも、彼に止められた瞬間、その姿を消してしまっている。
これは、一体?
「本当に強い人間はそれをひけらかす真似はしないと思うけど?」
そう言って柔らかく微笑んだ男の瞳は笑っていなかった。
途端ぞくりと走った寒気に剛は言葉を無くす。
力が効かない。
いや、違う。
今のは明らかに、力を消された。
動揺したままちらりと見やった男の後ろの坂本は、先までと変わらない姿勢のまま平然と、冷静な顔で彼らを傍観している。
まるで自分が動かなくとも、男が動く事を最初から知っていたかのように。
「あ、あんた一体…?」
「剛の力が利かないなんて、そんな…!!」
二人の問いかけに答えることなく、優しげな顔立ちをした男はやはり変わらない、穏やかな声のまま柔和な表情を浮かべて言う。
「礼儀を示す?それともまだ牙を向く?答えによっては…」
「っ!!」
捕まえられた腕をぎりっと強く握られる。
が、それを止めたのはやはり坂本だった。
「…長野。そこまでにしておけ」
「あれ?いいの?」
「そいつらにもう戦う意思はない。そうだろう」
言って、ちらりと坂本が視線を向けたのは、剛と健、そのどちらでもなく。
入室から今まで微動だにせず、部屋の後方で事の次第を見守り続けていた美形の青年、岡田だった。
問われた彼は一拍の間の後、大きな瞳をすっと閉じると、丁寧に腰を折って頭を深く下げた。
「先までの数々の無礼、どうぞお許し下さい」
そう詫びると頭を上げ、未だ悔しそうな顔で男…長野を睨んでいる二人の前に進み出て、軍式の敬礼の形を取る。
すると長野の腕を振り解いた剛と健も渋々と言った表情ながら彼の横に並んで敬礼の形を取った。
「改めまして、我々は特殊部隊より派遣されました」
「森田剛」
「三宅健」
「岡田准一と申します。我々はあなた方の力を認め、正式に配下に付かせて頂きます。どうぞよろしくお願いいたします」
「だって。坂本くん」
茶化すような響きのある、楽しそうな長野の言葉にため息を一つ落とした後。
坂本はようやく腰を上げて、三人を真っ直ぐに見据え、言った。
「俺はこの区画の最高責任者、坂本昌行大佐だ。今後よろしく頼む」
END
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TRASHブログより移動。
カミVSトニっぽかったのでVersusに収納してみました。
以下TRASHブログのコメントまんま。
前々から軍モノ(しかも特殊能力系)を書いてみたかったんです。
書きたいトコは書けたんで満足です。(要するに続かないらしい・笑)
てーか井ノ原さんが出てきてませんけども、彼は諜報部所属でそのうち顔を出す設定なんです。(笑)
ちなみにタイトルの「World Start Turning」はV6さんの公式サイトBGMタイトルから。
「世界は回り始めた」って自分の中では訳してるんですが、果たして合ってるのかどうか。(笑)
あっ!部下が藤ヶ谷氏なのは趣味です!(言い切った)
2010.03.12.Friday
Kohki Tohdoh Presents.