うそつき。

ぞぶり、と白い首筋に牙を埋める。
ぴくりと身じろいだ相手は、小さな声で不機嫌に「痛い」と抗議した。
何を今更、と思いながら、そのまま構わず奥から滴る赤い雫を吸い上げる。
それは甘露の如く、渇いた喉を、体の隅々を、くまなく潤した。

「・・・っ、普通さ、吸血鬼って、美女の生き血を吸うもんなんじゃないの?」

血液を強制的に吸い出され苦しそうに喘ぎながら、男の血なんて吸って何が楽しいの、と相手は悪態をつく。
そうは言いながらもこの行為に抵抗するそぶりが無いのはつまり、ただ本日の虫の居所が悪いだけなのだろう。
何がそんなに気に入らないのか、考えても思いつく心当たりが無い。
ここで下手にご機嫌取りをして更にご機嫌ナナメになられても困るので、そこは深く追求しないことにした。
問いかけに答えるために一度牙を抜いて、傷跡から滴った血液を舌先でちろりと舐め取る。
滑らかな肌の感触にもう一度食いつきたくなる衝動を抑えて、腕で口元を拭った。

「そりゃ迷信だ。実際は相性さえ良けりゃ老若男女問わず。場合に寄っちゃ動物の血だって飲むぞ」
「・・・節操無し」
「って随分な言われようだな」

人間ほど雑食ではないつもりだ、と返せば相手は返答に困ったように口をつぐんだ。
この世界で人間ほど食に節操の無い存在はいないということに気づいたのだろう。
くく、と低く喉で笑えば普段は柔らかな面差しが険悪になる。
恐ろしく冷たい表情も存外に美しいものだ。
そう思いながら自らがつけた傷跡に指を這わせれば、相手の顔が僅かに歪んだ。

「まぁ今の俺はお前にぞっこんだからな。Only youでも歌ってやろうか?」
「気持ち悪いこと言わないでよ。だいたいそれは俺にじゃなくて俺の血に、でしょ」
「仰る通り」

自他共に認めるグルメなせいか、彼のその血はすこぶる健康的で、また他に類を見ないくらい美味かった。
要するに相性がこの上なくいいのだ、自分たちは。
そんな相手はこの広い世界の中でそう簡単に見つかるものではない。
ましてや、同じグループの中でなんて。

「だから、思う存分食わせろよ」

口元に凶悪な笑みを浮かべて。
相手の返事を待たないまま、再びその白い首筋に食らいつく。
小さな身じろぎと、漏れ出る声と、苦しげな喘ぎ。
ただただ甘美な時間の中で呟かれた、消え入りそうな「うそつき」と言う言葉にだけは、聞こえないフリをした。








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TRASHブログより移動。
以下補足説明。

・実はリーダーは博さんを気づかって、体調に影響の無い程度しか血液を摂取しておらず、足りない分はよそでこっそり調達している。(必要量血液を摂取しないとやがて消滅してしまうため)
・でも相性の良い相手はなかなか見つからないので仕方なくマズイ血を我慢して飲んでいる。(が、相性の悪い血を飲み続けると寿命が縮む)←吸血鬼にも人間よりは遥かに長いが寿命がある。
・博さんは何かでそれを知ってしまったらしい。
・ちなみに吸血鬼に血を吸われても人間は人間のままです。

2010.06.28.Monday
Kohki Tohdoh Presents.
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