その光の下では、見慣れた人も何処か別人に思えて。












「岡田〜」
「おん?あ、健くん」
「何やってんだよ。置いてっちゃうぞ」

久しぶりに六人全員揃っての仕事があった日。
日もすっかり暮れてロケも終わり、さぁ帰るぞという時間帯に。
一人皆からは離れた所で佇んでいた岡田に、てけてけと駆け寄って来たのは健だった。
お馴染みのハイトーンボイスがキンキンと鳴る。

「もう出発なん?ごめんごめん」
「何一人でぼけっとしてんだよ。熱でもあんの?」
「ちゃうよ」

苦笑して手を振った岡田に、健はくりっとした目をぱっちりと瞬かせて首を傾げる。

「じゃあ何?」

理由はとことん追求したいらしい。

「大したことでもあらへんねんけど・・・」

うーんと唸って今度は岡田の方が首を傾げる。
それから彼がすっと見上げたのは、夜の帳を下ろした冬の夜空で。

「ただ月が綺麗やったから」
「月?」
「ほら、めちゃくちゃまんまるなお月さんやろ?」
「あ、ほんとだ」

言われて見上げた夜空にぷっかりと浮かんでいたのは、まんまるのお月様。
風もなく、雲もなく。
悠然と浮かぶその黄色い淡い球体は、静かな明かりを灯して星々と共に煌いている。

「お〜きれーじゃん」
「やろ?ここら辺街明かりも少ないし、月も星も綺麗に見えんねん」
「へーすっげー」

きゃらきゃらと健が喜んではしゃぐ横で、岡田はやっぱり静かにその場に佇んでいる。
物言わず、月明かりに照らされて静かにその空を見上げる様はまるで一枚の絵画のようですらある。
そんな彼をひとしきり騒いだ後ではたと見た健が、急に大人しくなって眉を寄せた。
泣き出しでもしそうな、不安な色の瞳が大きく揺れ、その手が岡田の服の端をしっかりと掴む。

「ん?健くん?」
「・・・なんか、岡田が遠くなった」
「へ?」

服を掴まれた感覚に視線をそこへと移動させる途中で、健の瞳と言葉にぶつかる。
言われた言葉と揺れる瞳の意味を飲み込めなくて、ちょっと驚いたようについ間抜けな声で返してしまったら、ちょっと怒ったような、拗ねたような顔の健がぶっきらぼうに呟いた。

「手離したら、お前どっか行っちゃいそうでやだ」

・・・まるで駄々っ子のようだ。
なんて、思ったことはまぁナイショにしておいて。
とりあえずその理由を問う。

「なんで?急にどないしたん?」
「お前、最近ずっと一人の仕事ばっかじゃん」
「まぁ・・・そうやなぁ」
「ただでさえ遠くなった気がするのに、今の岡田はもっと遠く見える」
「え?」
「月に連れて行かれるかと思った」

・・・それじゃまるでかぐや姫みたいやん。
またまた浮かんだそんな言葉は、真剣な顔でそう言っている健の手前やっぱり飲み込んで。
ぼそりと「V6の岡田准一なんだからな」と呟いた彼の一言にあぁそう言うことかと一人ごちた。
そんな風に行ってくれることへの嬉しさからか、それともただ単にその拗ねた様子が可笑しかったからか。
浮かんでくる笑いをなんとか微笑み程度に留めながら、岡田はゆっくりとそれを言葉にした。

「・・・行かへんよ」

まるでその言葉が子供をあやす母親の台詞のようで、内心でんふふと笑う。
きっと、博が言ったらもっとはまるんやろうけど。
なんて、自分の服をぎゅっと掴む健の手をぽんぽんと叩きながら、もう一度その言葉を丁寧に繰り返した。

「何処にも行かへんから、大丈夫やって」

優しく優しく。
出来るだけ優しく、長野の微笑みをまねするようにして微笑む。
彼をなだめるにはそれが一番だと分かっているから。
そうしたらちょっとだけ機嫌を回復したような顔の健が、それでもまだ拗ねたままの顔で上目遣いに聞いてくる。

「・・・本当かよ?」
「おん。やってな・・・」

ふっ、と。
岡田の視線はここよりちょっと遠くに注がれる。
ただ、漠然と。
見なくても、それが何に注がれているのか健には分かった。
きっと。
ううん、絶対に。
その視線の先には、皆がいる。

「俺が帰る場所は『ここ』やもん」

もう一度視線を健に戻して、にっこりと笑った岡田に。

「・・・そっか」

ようやくいつもの様子に戻った健が、満足げにふにゃっと笑った。

「おん」

胸をほっとなで下ろした気分で、岡田は頷く。
と、少し離れた所から、仲間たちの自分たちを呼ぶ声がした。

「岡田〜?健〜?帰るぞ〜?」
「うん!今行く〜!!岡田っ!!」
「おん?」

大きな声で仲間たちに返事を返してから、にぱっとした笑みを浮かべた健が。

「手、繋いで行こうぜっ!!」

などと、とってもこっぱずかしいことを言ってくれた。

「・・・・・」
「あ、なんだよその顔はっ!!」
「いや・・・なんで手?」
「いーじゃん、そんなに嫌そうな顔すんなよ!!」

岡田が渋い顔をすれば、なんだよ手繋ぐくらいっ!!と健がぷっくりと頬を膨らます。
これでまた機嫌を損なってしまうのもなんではあるのだが・・・

・・・まぁいいか、手くらい。

「・・・ええけど」
「おっし、それじゃ行くぞ〜!!」
「お、うおっ!!」

仕方なしに差し出した右手を健がまたにぱっと笑い、取って。
掛け声と共に思いっきり駆け出した。
あまりに急な加速にもちろん岡田は着いていけず、半ば引きずられるような格好である。
・・・格好悪い。
今最高に格好悪い格好してんで俺。
密かに心の中で涙する岡田であった。










・・・本当はさ、やっぱり恐かったんだ。

帰る場所はここだって、そう言ってくれた後も。

月の光に照らされた岡田が、本当に俺たちじゃ全然手の届かない所に行っちゃいそうで。

掴んでなきゃ、絶対どっかに行っちゃうんだって、そう思ったんだ。

だから無理矢理にでも手、引っ張って繋いで。

絶対離さないんだってそう決めた。










「月なんかに俺たちは負けないんだからな〜!!」
「・・・健くん?何突然叫んどんの?」
「なんでもないっ!!ほらきりきり走れよぉ!!」
「うおっ!!ちょ、健くん、足もつれるから!!」

あんまり走ると転ぶぞ、なんて言う仲間たちの笑い混じりの声に二人も笑顔で答えて嬉しそうに駆け寄る。
何やってたんだ?なんて聞く声に返事を返す中で、ちらりと健は岡田の横顔を盗み見た。
月の光の下で見た、何処か他人のような顔の岡田はそこになく。
いつも通りの『V6の末っ子』の顔で笑う彼に、健は満足げな笑みを浮かべるのであった。











COMMENT.

そういう感覚に敏感なのは健ちゃんだと思っている光騎@管理人。
当初はこれ岡田&長野コンビでやってみようかと思っていたネタだったりします。
しかし俺の中では月が似合う人間と言えば岡田か博さんかどっちかなんですよ。
なのでその二人にしてしまうと話が進まなそうだ・・・と言う事で岡田&健コンビに。
割とさくさく書けて楽しかったです。
つーか坂本&長野コンビでこなすことも考えたんですが、これやるとあまりにもはまりすぎたんでやめました。(笑)
あぁ、しかしやっぱり文がぎこちない・・・(悩)