『β(ベータ)からα(アルファ)へ。正門の配備OK。異常も特になし!』
耳にかけたイヤホンから、わずかなノイズ交じりに聞こえてくる声。
それに黒いスーツの襟につけたマイクを口元まで持ってきて男は答える。
「了解。じゃあこっちも移動を開始する」
黒塗りのリムジンの中。
助手席に座っている男は運転席の男に顔を向けるだけの合図を送る。
それを相手も無言で頷いて返し、アクセルを踏み込みハンドルをゆっくりと右へ切った。
「こう静かだと、逆に不気味だね」
「・・・確かにな。こう緊張感ばかり続いてるのもあいつに良くない」
男はサングラスの奥の鋭い瞳を細めて、視線はフロントガラスの先を見据える。
運転席の男は静かに笑って、見えてきた赤信号にゆっくりとブレーキを踏んだ。
「随分、優しくなったんじゃない?」
「あぁ?何がだよ」
「あいつに。昔は散々だったからさ」
「そうだったか?」
「とぼけるし」
赤から青に変わった信号に、運転席の男は再びアクセルを踏む。
それから笑みを濃くしてちらりと後部座席を見遣った。
とは言え運転席と後部座席は真っ黒な仕切りで仕切られており、後部座席に居る人間の姿は見えない。
二人の言う【あいつ】の姿は。
「さ、もうすぐ着くよ」
「あぁ」
短く答えて、男はスーツの下に隠したホルスターからオートマチックの拳銃を引き抜き、入念にチェックを開始した。
運転席の男も先までの笑みは潜め、険しい表情で辺りの様子を伺うように目的地へとリムジンを滑らせて行く。
*****
一番に車を降りたのは助手席の男だ。
足早に後部座席のドアまで歩み寄り、そのドアを開く。
そのまま中を覗き込むような体勢になった彼は、唸るような低い声でその中の相手に注意を促す。
「何処から誰に狙われているか分かりません。必ず私の後ろを歩いて下さい」
「分かってる」
その返答に男がドアの脇に立つと、後部座席から出てきたのは青年だった。
眉目秀麗という言葉が良く似合う、何処か作り物めいてすら居る美青年。
白いスーツがその美しさを際立て、そして輝かせている。
「准一様。会場は不特定多数の人間が入り混じっていて、正直かなり危険です。どうぞ十分ご注意を」
運転席から出てきた男が二人の元まで来て、青年にそう注意を促す。
その言葉に彼は少し表情を和らげて頷いた。
「ん。αにγ(ガンマ)、それにβも居るから大丈夫」
「でも本当に、SPは私たち三人だけでよろしかったのですか?」
「いいんだ。俺には三人が居れば十分。頼りにしてるから」
青年は微笑み、そうしてから精悍な顔つきになり。
「さぁ、行こう」
彼にとっての最初の一歩を踏み出した。
青年の名前は岡田准一。
若くして父親の後を継ぎ、岡田財閥のトップに立った人物である。
END.
Comment.
ガコイコSPの女子十二楽坊のヤツを見ていて、白いスーツを着た岡田氏の後ろを歩く黒スーツの坂本氏がなんだかボディーガード(SP)っぽく見えたのが全ての始まり。(笑)
つーわけで思うがままに書いてみたらこんなん出来ました。
あれ?自分が思ってたのとちょっと違うような・・・(笑)
もうちょっと殺伐としたハードボイルド的な世界にしたかったはずなのに・・・
しかも続き物っぽいですけど、例によって例のごとく続きません。(言い切るか)
ちなみに書かんでも分かるとは思いますが、αが坂本氏、βが井ノ原氏、γが長野氏となっております。
あ、ついでに言えばコードネームに深い意味はございません。なんとなくです。
それにしてもトニを引き連れた岡田ってのはちょっと新鮮かもしれないと思ったんだけどなぁ〜そーでもなかったかなぁ。(つーか約一名声のみの登場だし・笑)
まー無駄に設定を考えるのが好きな俺ですので、今すんごい設定だけが頭の中を先走ってます。(笑)
それだけで無駄に楽しいです。
やっぱスーツはいいね!(笑顔)
スーツのトニが大好物です。(笑)
そして岡田氏標準語強化月間です。(何)
お粗末さまでございました。
background Photo : 我儘な僕たちは