よく晴れた空に、立ち上る煙草の煙。

くだらない話と、バカ笑い。

それも存外に悪くないと思う、ある冬の日の午後。









「っくっわぁ〜!!さんみぃ〜!!何これ!?顔痛てえっ!!」
「だぁ〜からこの寒空の下わざわざ屋上に煙草吸いに行くバカがいるかって言っただろうがよ」
「んだよ、ノリ悪りぃなぁ。結局坂本くんだって付いてきてんじゃんよぉ〜」

二人が足を運んだ場所は屋上。
だからこそ余計に気温は低く、風は強くて。
他愛ない言い合いをすると、空に上るは白い息。
雪が降る前のように深々とした気温は、
暖房の中に居て温まっていた体を一瞬で冷やして行く。

「寒い寒いって思うから寒いんだよ。例年に比べりゃまだ暖かい方だろ。寒くねぇよ」
「どー見てもやせ我慢だけどねぇ〜」
「…思い込もうとしてんだから余計なこと言うんじゃねぇよ」
「あはあは」

防寒具を羽織らずに普段着のままの姿の二人。
頬はもうすっかり冷えてしまっていて、
小刻みに体が震えてる気がするのはきっと気のせいじゃない。
上着の一枚くらい羽織ってくるべきだったと思っても、まさに後の祭りなわけで。

「まま、折角来たんだしどうぞ一服」
「おう」

寒さを誤魔化す様に笑って、
(もしかしたら引きつって上手く笑えてないかもしれないが)
シルバーのジッポーに火を点して差し出した。
彼は短く答えて、懐から探り出した煙草を一本くわえる。

「・・・ん。さんきゅ」

じりじりと、煙草の先に灯る赤い炎。
すぐに真っ白な紫煙が天に向かって立ち昇り始める。
大きく息を吸い込んで、はいて。
それは煙なのか、それとも白い息なのか。
とにかくそれらは交じり合って、やはり天高く上っていく。
それをなんとなく見送ってから、
もう一人の彼も取り出した煙草に自分で火をつけて、その煙を存分に吸い込んだ。

「…ふ〜っ、いや〜やっぱこれだねぇ〜」
「どこのオヤジだよ、お前は」
「失礼だなー俺まだ20代よぉ〜?坂本くんほど年食ってねえって」
「…そー言うことをお前に言われんのが一番ムカつく」
「え〜?長野くんでなくて?」
「・・・あいつには色んな意味で勝てねぇ」
「・・・それはすごいよく分かる」
「だろ?」

屋上の柵にもたれて、そんな風に他愛ない会話を交わす。
時間はまだたっぷりあって、箱の中の煙草の本数も十分にある。
この時間を追い立てるものと言えば、頬を叩く冷たい風くらいだろうか。
二人は身を縮み込ませながらも、半ば意地の様に煙草をふかし続ける。





それからしばらくして。

「うわっ、寒っ。って煙たっ!!」
「お」
「なっがのくぅ〜ん♪」

はあ〜いなんて軽く手を上げて。
のん気な二人に返って来たのは心底呆れたような声。
屋上の扉を開いて現れた人物は、
寒そうに体をさすりながら二人に歩み寄る。
漂っている煙草の煙をぱたぱたと片手で払いながら。

「二人とも吸いすぎ。肺ガンになっても知らないからね」
「嫌なこと言うなよ」
「それでもやめられないのが喫煙者の性なのよねぇ〜」
「本人がいいならいいけど、くれぐれも周りを巻き込まないように」
「だからわざわざこの寒空の下で煙草ふかしてんだろ」
「肩身狭いんだよねぇ〜昨今の喫煙者は」

税率も罰則も高くなっている昨今。
喫煙者の率は下がっていく一方で。
それでもグループ内では6人中4人が喫煙者なので、
グループ内喫煙率は結構高かったりする。

「それにしても寒いね・・・ってそうじゃなかった。もうそろそろ時間だから戻るよ」

彼らを呼びに来たと言う目的をようやく思い出して、
白い息をはきながらそう言う。
もう指の先は冷たくなり始めていて、
両手をこすり合わせて暖を取る彼に、
にやりと笑ったのは喫煙者二名。

「・・・やりますか、坂本さん」
「やっちゃいますか、井ノ原さん」
「は?ちょっと、二人して何?」
『うりゃっ!!』
「うわっ!?」

何かを示し合わせたかと思えば、
急にのっしりと覆いかぶさるかのように抱きついてくる二人の男。
いくら土台としての定評がある彼でも、
そう体重をかけられれば重いものは重い。

「重っ!!っていうか煙草臭いし!!」
「おー暖けー♪」
「しかもこう弾力が・・・」
「って井ノ原!どさくさにまぎれて人のケツを叩くな!!」
「あはあはあはぁ♪」
「つーか耳元ででっけぇ声出すなよ〜」
「じゃあ離れてよ」
「イ・ヤ・ダv」
「俺たちの冷えた体を温めてぇ〜んvv」
「・・・はたから見たらどんな光景だよ、これ」

まるで団子状に固まった、大の男三人。
抱きつかれている彼は呆れ顔ではありつつも、二人を無理に剥がそうとはしなくて。
このテンションが自分たちなんだろうなぁ、なんて。
妙に客観的に、それでいて微笑ましい気持ちで頬を緩めた。

「ほんと、バカだよねー」
「えっ!?何!?俺たちのことっ!?」
「お前な!バカって言うやつがバカなんだぞ!?」
「・・・なんかすごい空しくなって来た」
「いや〜坂本くん、今の台詞はねぇよ」
「なっ!?お前何急にそっち寄りなんだよ!!」
「あはあは」

微笑ましい、と言うか何と言うか。
もしかしたら本当にただバカなだけかもしれない、なんて。
つい思いなおしてしまった彼は、
雲一つない空を見上げて、呆れた笑いを投げかけた。

『それでこそ俺たち、なんて納得しちゃっていいのかぁ?』









そっちはそっち。
こっちはこっちと言う事で。


「三人とも帰ってこぉへんなぁ・・・なぁ剛くん健くん、迎えに・・・」
『寒いからヤダ』
「・・・さいでっか」

期待した言葉が返ってくるなんて、最初から思ってなかったけど。
あまりにも彼ららしいセオリー通りの言葉をきっぱりと返してくれたので、
最年少の彼はなんだかもう、降参のポーズでもしそうになった。

「・・・じゃあ俺、迎えに行って来るから」
『行ってらっしゃ〜い』
「・・・・・」

年功序列、ここはぐっと我慢我慢。
・・・でも、それで納得できるかと言えばそんなわけもなく。
かと言って反論するのも面倒なわけで。
結局しかめっ面の状態で、楽屋の扉を開けるのだった。

『俺って結構損な役回りなんちゃう・・・?』









結局いい年した男三人の、異様に見えるじゃれあいは、
しぶしぶ最年少の彼が一人で迎えに来るまで続いたとかなんとか。








「・・・っ、ぶわぁ〜っくしょいっ!!」
「うわっ!?」
「汚ねぇなお前!!」
「あはあは」
「・・・まったくもう」










まぁそれも、存外に悪くない。



・・・多分。








END.







■Kohki's Comment.
トニのなんでもない話を書こうと思ったら、本当になんでもない話が出来たという。(笑)
日常シリーズの延長線上にあるような話ですな。
・・・要するに力が入っていないと言うか。(笑)
俺にしては珍しく、イノとさかもっさんが最初に登場というパターン。
この二人をちょっと書いてみたかったんですよ。
まぁお暇な時に暇つぶしにでも読んでいただけたならいいような話かと。(笑)

Background photo By.NOION
2005.01.28.Friday UP.