7月24日。
夜半の自宅にて、坂本昌行は軽くへこんでいた。
PM11:30
カコカコカコっと。
坂本は自室のベッドの上で胡坐をかいて、やや乱暴に携帯を操作していた。
「・・・薄情な奴らめぇ」
そう呟いてベッドサイドの台に置いてある灰皿に、くわえていた煙草をぐいぐいと押し付ける。
部屋にくすぶった煙を片手でぱたぱたと追いやりながら、ぶすくれた顔で携帯の画面を睨みつけた。
そこまで彼を不機嫌にしている理由は一体何かと言えば、本日7月24日、坂本の34回目のバースディの事である。
誕生日と言うことで今日は現場などでスタッフや仲のいい役者さん、友達などからはおめでとうの言葉や電話、メールをもらった。
・・・それなのに。
それなのに、だ。
「どうしてうちの奴らは誰一人として連絡くれねぇんだよ・・・」
そう。
そうなのである。
坂本のご機嫌斜め理由は至極簡単、単純明快。
誕生日と言う特別な日だと言うのに、肝心のメンバー誰一人として何の音沙汰もないからなのだ。
しかもそれが毎年の常ならば特に気にする事もないのだろうが、これがまた今年になって急になのである。
気にしない方が無理だと言うものである。
「別に特別に何かして欲しいわけじゃないけどよぉ・・・」
かと言っておめでとうの言葉すらないのは正直へこむ。
わしわしと髪をかきまぜてため息をついた後、坂本はもう一度未練がましく携帯の着信履歴の確認とメール問い合わせをしてみた。
・・・が、もちろん不在着信は0件の上、メールの方も一件も受信なし。
こうまで見事に誰からの連絡もないと本気でへこむ。
恨めしげに携帯の液晶画面をもう一度睨みつつ、本日34歳になってしまった彼は誰に聞こえるというわけでもないのに、これ見よがしの深い深〜いため息をついて折りたたみ式の携帯を乱暴に閉じた。
と、その途端に鳴り響く、着信を知らせる飾り気のない着信音。
「うおっ!?なっ、何だ!?」
そのあまりのタイミングのよさに思い切り驚いて思わず声を上げてしまった彼は、ちょっと頬を赤くしつつ慌ててサブディスプレイで着信相手を確かめた。
「誰だ一体・・・っと、おっ」
そこに表示されていたのは『長野』の二文字で。
いよいよ待ちに待ったメンバー第一号からの誕生日祝い電話かもしれないと、坂本は期待を胸に急いで携帯を開き通話ボタンを押し込んだ。
「もしもし、長野?」
『あ、坂本くん?今大丈夫?』
「あぁ大丈夫だけど・・・」
携帯の向こうから聞こえてきたのはいつもの相棒の柔らかい声。
と、何やら人の声のような、雑音のようなものがそれを邪魔するように響いてくる。
正直言ってかなりうるさい。
あまりにもそれが耳に付くので坂本は何よりも先にそれを聞いてみた。
「なぁ、なんか後ろやけに騒がしくないか?」
『え?あぁ、うん。みんな揃って盛り上がっちゃっててさ。ごめんね、うるさい?』
電話先の長野がそう言って後ろの騒音の原因らしい『みんな』に「ちょっとだけ静かにしてて」と声をかけているのが聞こえる。
それに坂本は軽く首を傾げる。
「みんな?」
『あぁメンバー全員だよ。声聞く?』
「いや、いいけど・・・なんでみんなして集まってるんだ?」
今日は確か五人が揃うような撮影はなかったはず・・・と坂本は自分の記憶を辿ってみる。
・・・って言うか五人だけって言う状況がまずおかしいだろ。
そんな風に頭の中で一人突っ込みを入れていたら、長野が思い出したように言った。
『あーそうそうそれそれ。それが電話した理由なんだけどさ』
「あ?どういうことだ?」
『今日って坂本くんの誕生日でしょ?』
「え?あ、あぁ、まぁ、な」
思わぬ所からそんな話が出てきて即座にはどう返答したらいいのか分からずにそんな半端な返事になってしまう。
それを特に気にした風もなく長野は続ける。
『それでみんなちょうどスケジュールが合ったから坂本くんの誕生日パーティーしようかって事になってさ』
「え・・・」
今の今まで何の連絡もなかったのはこのためだったのか。
ギリギリまで内緒にして俺を驚かすつもりだったんだな。
ちゃんと俺のために全員で誕生日のサプライズを考えてくれていたのか!
・・・と坂本が素直に感動しそうになった時、長野はいつもの口調であっさりととんでもなくおかしなことを言ってくれた。
『で、今そのパーティーでみんなで盛り上がってる所』
「・・・・はい?」
・・・ん?
あんだって?
「えーと、長野?今の俺の聞き間違い・・・」
『ねーみんな』
『『イエ〜イ!!』』
坂本の言葉を無視して盛り上がる携帯電話のあちら側。
慌てて坂本は声を上げた。
「ちょちょちょちょっと待て長野っ!!」
『え?何、どうかした?』
あまりにもあっけらかんと問い返されたので、一瞬自分の方がおかしな事を言ったのかと錯覚したが、どう考えても携帯のあちら側がおかしな状況になっているわけで。
坂本は慌てて携帯電話に向かってまくし立てた。
「いやどうかしたじゃねぇだろ!?本人の居ない所でなんで誕生日パーティーなんだよ、おい!?」
『え?何?坂本くんも参加したいの?』
「・・・おい?長野さん?その質問根本的におかしくねぇか・・・?」
『しょうがないなぁ〜坂本くんは寂しがり屋さんなんだから〜』
「・・・新しいパターンのいじめか何かか?」
怒る気も失せて脱力気味にそう呟けば、やっぱり携帯の向こう側で長野が後ろのメンツにわざとらしく問いかける声が聞こえる。
『みんな、坂本くんがどうしても混ぜて欲しいって言ってるんだけどどうする?』
『『えぇ〜!?』』
「・・・えーじゃねぇだろ、オイ」
ほんとに何がしたいの?こいつら。
脱力を通り越して涙さえ浮かんできそうになって来た坂本に、長野は唐突な事を言った。
『じゃあとりあえず外出て待っててよ。迎えに行くから』
「っておい、今からかよ?」
部屋の時計を見てみれば、いつの間にやらもう12時近い。
今から集まってパーティーとなると明日の仕事に差し障る。
だいたい12時を回ったらもう24日ではなくなってしまうわけだし。
『いいから早く今すぐ外に出る!!じゃあね!』
「あ、おい長野!!」
坂本の言葉は一切聞き入れられず、一方的に電話は切られてしまう。
「・・・一体なんだっつーんだこりゃ」
呆然と携帯のディスプレイをしばらく眺めていた坂本は、とりあえず携帯を閉じてベッドから立ち上がった。
迎えに行くと言われてしまった以上は外に出て待っているしかないわけで。
状況がいまいち把握出来ない状態ではありつつも、とりあえず家の鍵だけを持って玄関の扉を開いた。
と。
『ハッピーバースデー坂本くん!!』
「・・・なっ!?」
『34歳おめでとぉ〜♪』
扉を開いた途端に聞こえてきた声。
それに驚いてマンションの正面の通りに目を向けてみれば、
そこには見慣れた事務所のワゴン車と五人の姿があった。
運転席で策士の顔で笑って手をひらひらと振っているのは長野。
ワゴンの外に出て相当大げさに両手を大きく振っているのは井ノ原。
その隣でちょっと控えめに苦笑しながら手を振っているのは岡田。
そしてワゴンの屋根の上に顔を出して大きなホールケーキを掲げて笑っているのは剛健コンビだ。
これはまた、とんだサプライズだ。
「お前らなぁ・・・」
坂本は込み上げてくる笑みを必死に抑えて、五人に向かって思い切り叫んだ。
「近所迷惑だろうがっ!!」
『シーッ!!』
「あっ!!」
・・・どっちもどっちである。
まぁ、ここは一つ。
人が集まって来る前にとんずらと行きますか。
坂本を助手席に乗せ、とりあえず走り出した車は行く宛てもなく突き進む。
「ね〜どうせならこのまま海行こうよ海!!」
「いいね〜そんなに距離ないっしょ?」
「そうだね、一・二時間あれば着くかな」
「っておいおい、お前ら明日の仕事は大丈夫なのか?」
「うひゃひゃ、どうせ俺たち明日全員オフだし〜♪」
「げっ!?マジかよ!?岡田もか!?」
「残念ながら、俺も明日はオフやねん」
「なんだとっ!?」
今日は主賓でも明日は一人お仕事な彼はやっぱりへこみつつ。
でもそれでも今の状態についつい頬は緩んでしまう。
「日は跨いじゃうけど海で改めてケーキのロウソク消すのやろうよ。で、みんなで食べよっ♪」
「車内じゃ落ち着かねぇし、改めてバースディパーティーってことでいいんでない?」
「つってもその主役が甘いもん苦手じゃん」
「・・・気持ちだけありがたく受け取っておくよ」
「んふふ。坂本くんにはバースディケーキは軽く罰ゲームやな」
わいわい盛り上がる後部座席に対し、なんだか含みのある微笑みを浮かべた運転席の長野。
それを目ざとく見つけた坂本はちょっと拗ねたような顔で。
「・・・なぁに笑ってんだよ」
「え?あぁいやいや。楽しそうだなぁと思ってさ」
「ったく、策士家め」
「はは。でもびっくりした分想い出に残る誕生日になったでしょ?」
「そりゃあな」
「じゃあリーダー、今年の誕生日の感想は?」
答えを知っているくせにわざわざそれを聞いてくる相棒に、その通りの答えを返すのも癪だったけれど、
坂本は素直な気持ちを口にした。
「・・・むちゃくちゃ嬉しいよ」
「それは良かった」
深夜の道を走る車の中、もうすぐ時間は12時を回る。
24日が過ぎ去ってしまう前にと、仲間たちは顔を見合わせ、微笑み合って。
『改めて坂本くん、誕生日おめでとう!!』
「・・・ありがとよっ!!」
そんな仲間たちに囲まれて過ごす誕生日がこの上なく幸せだと思った、
坂本昌行34回目のバースディだった。
END.
■Kohki's Comment.
もー難産で難産で困った!!(汗)
どうしても話がまとまらなくて時間ギリギリになってしまいました。
奇しくも作中と同じ時間帯だよ・・・
なので予定していた連動絵も描けんかった・・・
もーこれ以上はノーコメントで!(笑)
あぁ書き直したい・・・(早速かい)