こもれびのばしょ。

全員集合。


「あ、お疲れ様っす〜」
軽い調子で浅輪が口にした挨拶に、入ってきたうちの片方、痩せ型で少々柄が悪く見える男が軽く片手を上げて応えた。
それから彼は室内を見渡すと、にやにやとした笑みを浮かべて言う。
「なによなによ、随分盛り上がっちゃってんじゃないの?」
「どうかしたんですか?あれ?どちら様?」
井上の存在に気づいて、やや大げさにこてりと首を傾げたのは入ってきたもう一人の方だ。
少々太りすぎではあるが人の良さそうな顔をした黒縁メガネの男は、にこにことした顔を井上に向けている。
先の流れから立ったままだった井上はそのまま挨拶をしようと口を開きかけたが、しかし。
またもや加納がそれを口にする方が一瞬早かった。
「こちら、浅輪くんのお友達の井上薫くん」
「あ、井上です、初めまして」
『どうも初めまして』
慌ててお辞儀をする井上に、見事なまでにぴたりと声を合わせた二人がぺこりとお辞儀を返してくれる。
その上。
「9係イケメンコンビの青柳&矢沢です」
「よろしく、ねっ☆」
何故か二人揃って珍妙なポーズをびしっと決めた。
・・・うん、えっと、とりあえず仲良しコンビだと言うことはよく分かりました、はい。
リアクションに困り、ただただ引きつった笑いを浮かべるしかなかった井上である。
「あ〜お〜や〜ぎ〜さぁ〜ん」
「あ?」
ばっちり決まって満足したらしく、ポーズを解いて矢沢とハイタッチをしていた青柳に、いかにも恨めしそうな声でその名前を呼んだのは村瀬だった。
彼はそれはもう鬼のような形相で青柳をぎりりと睨みつけると、我慢ならないとばかりにうがっ!と吠える。
「あんた、また報告もあげずに勝手に動き回りましたね!?」
「えぇーなんのことかなぁー☆」
知らないよなー?と青柳は矢沢と顔を見合わせて可愛らしく首をかしげる。(が、実際に可愛いかどうかは別問題である)
「知らないってあんたね!実際来てるんですよ!苦情の電話が!!素行の悪い刑事にいきなり脅されたってね!!」
「えぇ?素行の悪い刑事って誰のことだろうな?」
「誰のことでしょうねぇ」
「〜〜〜〜っ!!」
怒り心頭といった風に、もはや言葉も出せずにこめかみをぴくぴくさせる村瀬だが、青柳は全くもってどこ吹く風とばかりにひょうひょうとしている。
それがまた村瀬の怒りを買って、結果、取っ組み合いのけんかに発展しそうになったのを、間に入った矢沢が文字通り体を張ってなんとか押しとどめた。
が、臨戦態勢に突入している二人の勢いは止まらず、両側から押しくらまんじゅうの要領で圧力をかけられた矢沢は、ひたすら苦しげなうめき声をあげるのだった。
「ほんっと主任さんも青柳さんも懲りないわよねぇ」
「あはあは。まぁあの二人は水と油ですからねぇ」
呆れ顔の小宮山と、のほほんと笑う浅輪はどうやらこのやりとりを止める気はないらしい。
それが彼らの日常であり、いつものことなのだろうが、第三者である井上はただただ困惑するばかりだ。
棒立ちのまま、どうしたもんかと所在なさげにしていると、スーツの裾がくいくいと引っ張られた。
それは言うまでもなく加納の手によるものである。
「座ったら?」
「え、あ、は、はい」
促されるまま再びソファに身を沈めると、落ち着いた声で加納がぼそりと補足説明を加えてくれる。
「村瀬くんと青柳くんは犬猿の仲」
「はぁ」
まぁ見たまんまですよね、と言う言葉は再び飲み込んだ井上だった。