予定外に空いた、番組撮影までの随分と長い待ち時間。

各々が思い思いに時間を過ごしている中、楽屋には俺と坂本くんだけがいた。

二人並んだソファーで、最初は下らない話やなんでもない話をして散々笑いあっていたのだけれど。

何とはなしに、やがてどちらともなく無口になった。



言葉の無い時間。



夕方を指す時計の針は、カチカチと音を立てて過ぎ行く時間を追う。

坂本くんは、淹れたての珈琲を口に運びながら、ただそれを見ていた。

俺は、明日も晴れるかななんて思いながら、日が沈みかけた窓の外を眺めた。



柔らかな夕日の赤と。

香ばしく香る珈琲と。

暖かく落ちる沈黙と。



呼吸の音さえ、何故だか愛しい。



幸せとは何かと聞かれたら、俺は迷うことなくこんな時間だと答えるだろう。

そう、それを言葉にするなら「かんばしい空虚」だ。

いつか読んだことがある詩の、その一文を思い出して口元を緩める。

それはなんて素晴らしい形容だろうか。



「もう一杯飲むか?」



やがて空になった自分のカップを持って、坂本くんがそう問いかけてきた。



「うん」



俺はそれに微笑み、頷くと。



「熱いのをね」



そう言って自分のカップを坂本くんに手渡した。





END.



≫Comment.
金子光晴の「二人がのんだコーヒー茶碗が」という詩からインスピレーションを受けて。
思いつくままに書いたらこんなんできました。(笑)
一応ツートップのつもりで書いたんだけど、一人称俺の名前が出てこないので他でもいけるかも?
この詩に出てくる「かんばしい空虚」と言う言葉がなんだか好きな俺です。
原詩はネットを検索すれば見つかる・・・と思う。(笑)
併せて読んで頂けるといいかもな感じです♪

しかし俺がこの詩に出会ったのが某デパートのお歳暮カタログっつーのがなんともかんとも。(笑)

2007.10.09.Tuesday UP

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