十年経った今でも、この人と二人っきりになるのはなんかちっと気まじぃ。

「お?なんだ珍しいな。剛だけか?」
「あーみんな思い思いに出かけた」
「そうか」

……はい。
会話しゅーりょー。
必要最低限の、たったそれだけの話をして、後は二人それぞれの世界に入る。
俺はあんまし(つーかほとんど?)坂本くんと積極的な会話をしねぇ。
言い訳っぽく聞こえるかもしんないけど、別に坂本くんの事が嫌いだとかそういうわけじゃねぇよ?
ただなんつーか…二人になるとひたすら気まじぃんだよ。
んで会話が保たないから自分の世界を作って閉じこもるしかないっつー悪循環。
多分、俺たちの場合最初の頃が悪かったのが今もなんとなく尾を引いてる感じなんだと思う。
……俺たちっつーか、もしかしたら俺が一方的になのかもしんねぇけど。

「剛」
「……ぅえっ!?あ、何?」
「ぷっ。お前そんなに怪訝な顔すんなよ。そんなに俺に話しかけられたくなかったのか?」
「えっ?いや、別にそんなんじゃねぇけど……」
「ま、いいや。ちょっと時間空いてるしあいつらもいないから今のうちにコンサートのソロ構成の話しとこうかと思うんだけど……」
「あ、うん」

楽屋で二人きりの状態で挨拶以外の会話が生まれることなんて滅多にねぇからかなりびっくりした。
……感じ悪かったかな、今の。
変な風に思ってなきゃいいけど。

「……おーい剛?」
「……えっ?あっ、ぅえっと、コンサートのソロの構成の話だっけ?」
「どうした?お前なんだか上の空だな。話はあいつらが戻ってきてからにするか?」
「えっ、いや、別にいいって!今聞く!」

慌てる俺に、坂本くんは苦笑い。
……坂本くんは変わったと思う。
昔だったら多分、今の俺に対してプロの自覚がない!とかマジメに話を聞け!とかって言う説教確実だった。
これが大人の余裕ってやつなのか?
対する俺はと言えば…なんだか情けなくてしょうがねぇや。

「あんさぁ。坂本くん……」
「んー?どうした?」
「ごめん。それからありがと」
「剛ちゃん……?何だいきなり。熱でもあるのか?」
「ねっ、ねえよ!!いーんだよ!!素直に聞いとけよオッサン!!」
「オッサンってお前なぁ……」

うおっ、しまった!
謝ってんのに悪態ついてどーすんだよ!
苦笑いの坂本くんは俺の髪を片手で軽くかきまぜた。

「なぁ〜に考えてんだか知らないけど、悩みがあるなら言うんだぞ?ま、俺には相談出来ねぇって言うんなら井ノ原とか長野とか、適材がいるしな」
「べっ、別に悩みがあるわけじゃねぇって!ただ……」
「ただ?」

……なんつーか、それを言うのは恥ずかしくねぇか?俺。
けど『ただ』なんて言葉をくっつけちゃった以上は、次の言葉を待ってる坂本くんに何も言わないわけにはいかねぇし……ここは男森田剛、腹をくくるしかねぇ!!

「剛?」
「……ちっと、歩み寄りたくなったんだよ。十周年だし」

……我ながら、似合わない事言ってる自覚はあります。
言われた坂本くんもなんかヘンな顔して固まってるしさぁ……どーすんだよこの気まじぃ空気!
沈黙とかマジ耐えらんねぇし!!

「……っ、あーナシ!!やっぱり今のナシ!!なんでもねぇよ!!ほんとなんでもねぇから!!」
「剛」

もーなんだか俺自分でも何言ってんだかさっぱりわけ分かんなくなってきた!
でもとにかくとりあえず、この空気を誰かどーにかしてくれ!!

「剛!」
「うおっ!」

なっ、なっ、なんだっ!?

「俺は今モーレツに感動している!!」
「はぁっ!?」

予想外の反応が来てつい俺は変な声をあげてしまった。
いや、だって、うるうる目の坂本くんが俺の手をがしっと掴んでくるとかなんだこれ!
ある意味超怖ぇんだけど!?

「そうかぁーあのツンツンしてた剛が十年も経つとそんなことを言ってくれるのかぁー」
「いや、あの、坂本くん……」
「そーかそーか。俺は嬉しいぞ剛!」

うんうんとしきりに頷いて、ぎゅうぎゅう俺の手を握ってくる坂本くん。
……いや、ほんともう勘弁して。
マジ超恥ずかしいからっ!!

「たっだいまー♪」
「そろそろ撮影始めるっぽいよ……って、何してるの?二人とも」

坂本くんの手をなんとかほどこうとしていたら、長野くんと井ノ原くんが楽屋に入ってきた。
ちょ、なんでそんな絶妙なタイミングで帰ってくんだよ!
どーすんだよこの状況!!

「それがさ、聞いてくれよ!剛が……」
「ぎゃー!言わなくていい!言わなくていいから!!」
「えっ、なになに?そんな拒否されるとちょー気になるぅー」
「剛がどうしたの?」
「実はさっきな……」
「うわー!!」

ほんともうマジで勘弁してくれー!!!

……俺の上げた悲痛な叫び声も空しく。
それからしばらくの間、(主に事情を知った健から)散々からかわれ続けた事は言うまでもない。








END.


2015.10.22.Thu 日記アップ。
2016.05.28.Sat Novelページアップ。

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