◆ツートップで十年を振り返る。
「十年かぁー」
「なんだよ、いきなり」
某スタジオ内、トニセンに割り振られた楽屋で。
俺が不意に口にした言葉に対して、さっきまで部屋の隅の方で台本を読んでいた坂本くんがそう反応してこっちに近づいてきた。
あ、ちなみに井ノ原は一人ふらふらと外出中です。
「ほら、雑誌のアンケート。坂本くんも渡されたでしょ?」
「あぁ、あれな」
俺の背後から俺の持ってるアンケート用紙を覗き込んで坂本くんが頷く。
「十年を迎えて今の気持ちは、か。どこかで聞いたような質問だよな」
「そりゃそうでしょ。今までに似たような質問他の雑誌でも何回も受けてるもん」
もうボケたの?ってセオリー通りの事を聞いてみれば、いつものようにまだそんな年じゃねぇって笑いながら坂本くんは俺の隣に座り込む。
そうしてから俺の持っていたアンケート用紙をスッとさらっていった。
って、俺今書いてる途中なんだけどなぁ。
「んー・・・ほんっとに似たか寄ったかな質問ばっかりだよなぁ」
「うん。こうやって同じ様な質問に何社分も答えなきゃいけないのって結構大変だよね。自分の言葉のレパートリーのなさに気づく瞬間って言うか・・・どの雑誌を見ても同じ事書いてると思われても困るしさ」
「まぁ十周年だからなぁ。結局みんな聞きたいことは同じなんだよな」
アンケート用紙をひらひらと揺らしながら、ちょっと渋い顔の坂本くんはう〜んと唸ってその場で後ろへぱたりと上体を倒す。
坂本くんにアンケート用紙をさらわれて手持ち無沙汰になってしまった俺は、なんとなくテーブルの上にあったお茶のペットボトルを飲むわけでもなくただ手にとって弄んだ。
ちゃぷんと中で水音が響く。
そして楽屋にはちょっとの沈黙。
「・・・ん〜ダメだ。真新しい答えなんて思いつかねぇわ」
どうやらずっと回答を探していたらしい坂本くんが天井を仰いだまま息を吐いた。
そのままの体勢で気だるげに髪をかき上げる。
「はは。でもこれから十一月に近づくにつれ急激にこういう趣旨の質問増えるよね、きっと」
「だろうなぁ」
「今から回答案いくつか用意しとかないとヤバイかもよ?」
「だよなぁ・・・」
寝っころがった体勢のまま、坂本くんはやっぱり渋い顔をしてアンケートを睨んで、空気の抜けるようなやる気のない声。
強面にへにょへにょの声ってなんだか笑えるなぁ。
ここで笑ったりしたら機嫌を損ねるだろうからとりあえずその笑いは飲み込んでおくことにするけど。
それにしても。
十年、か。
「あのさ。坂本くんは十年って長かったなぁと思う?それとも短かった?」
唐突に、俺はそう質問してみた。
なんとなく、今それを聞いておきたくなったから。
「んー?そうだな・・・俺は正直あっという間だったかな。むしろデビューしてからよりもデビューする前の方が長かった気がするよ」
「あーうん、そっか。考えてみれば俺もそうかも・・・」
俺と坂本くんはいわゆるJr時代が他のメンバーよりも途方もなく長い。
年齢が近かったせいか、当時からワンセット扱いされることも多くて、イコール付き合いも他のメンバーよりも随分と長かったりする。
そう言えばもう今年で十八年になるのかな。
ついでに言えば、なんと俺は事務所入所二十周年だったりもします。
まぁそんなわけで坂本くんとは何気に苦労した時代をずっと一緒に生きて来てる。
それはもう本当に長い、長いトンネルだった。
「長かったよねーデビュー前。俺もうずっとあのままなのかと思ってたもん」
「俺もだよ。もう俺はこのまま事務所スタッフで終わるんだな〜って思ってた所に思わぬデビュー話だもんな」
「うん。あの時は本当にびっくりしたよね。坂本くんなんて茂くんを抜いて事務所最年長デビューだったもんねぇー」
「あんまり嬉しくねぇ記録だよな、それ」
「ははは」
正直、最初の一年は余りにも目まぐるし過ぎて、あれよあれよと言う間に色んなことが決まって行って、本当に訳が分からなかった。
でもとにかく必死で、世界の変化についていかなきゃっていっぱいいっぱいで。
周りを見渡す余裕が出来始めたのは、多分それからさらに一〜二年くらい経ってからだと思う。
「十年かー・・・改めて思うと、色々あったねー・・・」
「あったなぁー色々。デビュー当時から一発屋だとか何だとか散々言われて。けどそんな俺らが十周年だもんなぁ」
人生何があるか本当分からないよなぁ。
そう言った坂本くんの言葉に俺は苦笑しながら頷いた。
本当にこの十年、V6と言うグループには良い事も悪い事も山ほどあって。
それが今やグループ結成十周年を迎えるなんて、本当に凄いことだと思う。
正直な話、V6と言うグループの十年は、山あり谷あり以上の波乱万丈さだった。
出会ったばかりの、しかも気心の知れない赤の他人がグループを組むって言う難しさを痛感した事もあったし、年齢のギャップに悩んだ事もあった。
そして、周りの心無い言葉に傷つけられたことも。
それでもそれを乗り越えてこれたのは、変わらずに応援し続けてくれたファンと、そして何より、坂本くんと、俺と、井ノ原と、剛と、健と、岡田・・・このメンバーだったからこそだって俺は思ってる。
後、それにもう一つ。
「あのさ」
「ん?」
弄んでいたペットボトルを手放して、俺はちょっとだけ改まった風に坂本くんの方に体を向けた。
相変わらず寝転がったままの坂本くんは、不思議そうな顔で俺を見上げてくる。
・・・本当はあんまり、こういうことを言うのは得意じゃないんだけどね。
「今、俺の隣に立ってるのが坂本くんで良かったよ」
・・・これが、今の俺の、本当に本心から思う事。
多分、俺たちはどちらかが欠けていたらダメだったんだと思う。
俺の隣には坂本くんが居て。
坂本くんの隣には俺が居て。
だからこそ俺たちの今があるんだと思う。
折角の十周年だし。
こういうことを本人に面と向かって言うのはちょっと照れくさいけど、こういう機会でもないと言えない事だから、俺は素直に口にしてみた。
そうしたらしばらくの間をおいて、ふっと笑った坂本くんが体を起こしてからちょっとだけ改まって、やっぱり照れくさそうに答えてくれた。
「・・・俺もだ」
・・・なんか、やっぱりこういうのって恥ずかしいよね。
ついつい俺と坂本くんは顔を見合わせた後、その気恥ずかしさに笑ってしまった。
きっと、お互い言葉にしなくても分かっていたことなのかもしれないけど、でもこういうのって実は大切なのかもしれないね。
「改めて、十一年目もよろしくな、相棒」
二人でひとしきり笑った後は、坂本くんがちょっとだけ佇まいを正して、男前の笑顔を浮かべてそう言ってくれた言葉に、
「こちらこそよろしく」
当然、俺は満面の笑みでそう答えた。
「井ノ原快彦ただいま参上〜!!・・・って、ちょっとちょっとぉ〜!なーに二人で雰囲気作っちゃってんのよぉ〜えぇ〜?」
外回り(って言うと営業のサラリーマンみたいだね)を終えたらしい井ノ原が楽屋に戻って来るなり細い目を更に細めてそう言った。
元来構って欲しがりの井ノ原は自分が仲間外れにされるのが一番嫌いみたいで、すぐこうやって人の話に割って入ろうとする。
そう言う所、昔から全然変わってないよなぁチビちゃんは。(あ、なんだか凄い懐かしい響きだなぁ)
まぁ井ノ原を軽くかわすくらいの手法は俺も坂本くんも長い付き合いの中で会得してますから。
坂本くんと二人、顔を見合わせてから井ノ原にきっぱりと言った。
『相思相愛ですから』
・・・別に、打ち合わせをしたわけでもないんだよ?
それなのに、示し合わせたようにぴったり言葉とタイミングが合った。
はは。
自分で言うのもなんだけど、さすが十年以上の付き合いだね。
「・・・十年経ってもオシドリ夫婦ですか」
俺たちの言葉に脱力した井ノ原の言葉がなんだかおかしくて、坂本くんと二人、また顔を見合わせて笑ってしまった。
十年経っても変わらないもの。
それはいつまでも普遍のメンバーとの絆。
そしてもう一つ。
そこに【在る】のが当たり前であると言う、
俺たち二人の揺ぎ無い関係性。
END.
◆Kohki's Comment.
第二回コンビ投票結果に基づいて、ツートップ小説をお送りしました。
いやー他を見事に引き離して圧倒的な一位でしたね。
光騎@管理人自体がこのコンビ好きなもので、書くのは割と楽です。
今回は折角なので二人に十年を振り返ってもらいました。(笑)
まぁたまにはこんな話もいいかなぁと。
そしてよっちゃんもちみっと出演。(笑)
楽しんで頂けたのならば幸い。
Background : NOION