同期。


臨海署は交通機動隊の分駐所が併設されていることからベイエリア分署と呼ばれている。
現在の日本警察に分署という形式は無いのでそれはあくまで通称なのだが、現場の人間は大抵がベイエリア分署と呼ぶ為にすっかりその名が定着してしまっていた。

長野博はそんなベイエリア分署のお隣さん、交通機動隊の小隊長である警部補だ。
交機隊の所属は本庁なので、本来ならば本庁寄りの考えを持っていてもおかしくはない相手なのだが、坂本が「お前は本庁の人間だろう」と指摘する度、彼はいつも決まって「俺はベイエリア分署所属だから」と答えた。
どういうわけか彼はこのプレハブ小屋の警察署がお気に入りらしい、と坂本は思っていたが、その実長野がこの警察署にこだわるのはひとえに坂本の存在によるものであることには気づいていなかった。

坂本と長野は警察学校の初任科で同期だった。
つまりそれから今日までに至る長い付き合いである。
いわゆる腐れ縁と言ってもいいだろう。
それぞれハコ番を経てベイエリア分署に配属されるまでの経緯は全く異なるが、ここで再会したのも何かの縁と言えるのかもしれない。
それがいいのか悪いのかは別として。


「あれ?今日は一人?ハンチョウ殿」
ちらりと視界に入ってきたブルーの制服に、坂本は一つ、ため息をこぼさずにはいられなかった。
そのまま答えを返さず、書類から顔を上げずにいれば、ブルーの制服は坂本のデスクまですたすたと無遠慮に近づいてくる。
「今日は坂本くんだけお留守番なんだ。珍しいね」
「・・・長野。お前は毎日毎日、暇なのか?」
署内パトロールは長野の日課のようなものだ。
彼の持つ幅広い情報はひとえにこの署内パトロールの賜物であると言えよう。
だがしかし、こうも毎日署内をふらふらしているのを見ると、こいつは一体いつ仕事をしているんだとつい訝しんでしまう坂本である。
「愚問だね。交機隊はいつも大忙しだよ。今日も一仕事終えてきた後だしね」
にこりと笑うその笑顔に、坂本は今朝方起きた高速道路での暴走族対交機のカーチェイスが署内で話題になっていたことをふと思い出した。
「そう言えば噂になってたな」
「え?何が?」
「交機の長野小隊長がえらく楽しそうに暴走族と追いかけっこしてたってな」
「えー酷いなぁ。俺はまじめにお仕事してただけなのに」
それは真実かもしれないが、けれど確かにそう言う時の長野は水を得た魚の如く生き生きとしていることを、何度か彼が運転する車に同乗したことがある坂本は知っている。
大好きなバイクや車を時には制限速度を気にすることなく乗り回せる交機の仕事は、長野にとってこれ以上無い適職だろう。
もはや天職といっても過言ではないと坂本は思っていた。
「この書類を片付けたら現場に出るんだ。だから邪魔しないでくれ」
「ふーん。じゃあ車出そうか?」
「おい。交機の車を捜査に使うわけにはいかないだろ」
「俺がいいって言ってるんだから問題ないよ」
「交機は大忙しだったんじゃないのか?」
「俺の部下たちは優秀だからね」
ふふんと胸を張る長野に坂本はまた短いため息をついた。
確かに長野の部下である交機の隊員たちは良く訓練されている。
小隊長である長野をヘッドと呼び、敬愛する姿勢はまさに長野軍団と称されるだけのことはある。
ゆえに優秀と言う言葉に間違いはないだろうが、しかしだからと言って勝手に己の職務を越えた仕事をするのは如何なものかと思う。
まぁ、だがしかし。
「分かった。後五分くらいで終わらせるから待っててくれ」
「了解。じゃあ先に行って車の準備しとくよ」
にっこりと笑ってから足早に部屋を後にする長野の背中を見送りながら、坂本は渋い顔でひとりごちた。
「どうせ、一度言い出した事は絶対に曲げないからな」
言い争うだけ無駄だと言う事は長い付き合いで分かっている。
自分が長野相手に口喧嘩で勝てる筈もない事も。
仕方がない。
本人が大丈夫だと言っているのだから、大丈夫じゃなかった場合は彼になんとかしてもらおうじゃあないか。
坂本は密かな決意をしてから、手元の書類を五分以内に片付けるべく事務仕事に専念した。


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相変わらず俺だけが楽しい安積班パロ。(笑)

最新刊だとベイエリア分署は建て直されて立派な建物になった上に規模も大きくなってるんですが、個人的には安積ハンチョウと同じく(笑)分署時代の方が好きなのでパロの舞台はご覧の通りに。
なんかこーちゃんとした話を一本書きたい気分なんだけどネタがないのでしょうがない。(笑)
ついでに安積班もとい坂本班のメンバーが決まってないんだからしょうがない。(笑)
原作設定で考えると村雨→剛つん、桜井→健ちゃん、須田チョウ→イノ、黒木→岡田かなぁ。
村雨さんの階級を調整しないといけなくなるけども。