「さーさーの葉さーらさらー♪」
やけに上機嫌だと思ったらそんなことを独特のキャラメルボイスで歌いだした健に、岡田はそうかとカレンダーを見た。
番組撮影の出待ちをしているカミセンの楽屋内。
今日は7月の7日。
織姫と彦星が一年のうち一日だけ出会うことを許された唯一の日、七夕である。
『七夕ってどうも天気に恵まれへんけど今夜はどうやろな』
そんなことを思って窓の外を眺めていたら楽屋のドアを開けて剛が入ってきた。
小ぶりの笹を両手に抱えて。
「あー笹だー!剛、どうしたんだよそれ」
「スタッフさんが七夕だから笹の差し入れだってさ。短冊もくれた」
「へぇ。おもろいことすんねんな」
笹を楽屋内に立てかけて置いて、貰った色とりどりの短冊をそれぞれに何枚か渡す。
七夕の短冊は一人一枚とは決まっていないので好きなだけ書くのだ。
「七夕に願い事かぁ。こんなの書くの幼稚園とか小学校以来かも」
そう言ってうきうきと楽屋に置いてあったペンで早速何事かを書き始める健。
それを微笑んで見てからよぉし、と岡田もペンを取る。
剛も二人に習い、腰を下ろしてちょっと考える素振りを見せてからペンを握った。
そして暫し待つこと数分後。
「二人共もう書けた?」
「おう」
「ばっちりやで」
健の問いかけに剛と岡田二人で頷いてニコッと笑う。
じゃあと前置いてから立てかけておいた笹を取り、それを三人で囲んだ。
「結ぼう。んで屋上に置いてこようよ」
このスタジオの屋上は立ち入り自由だったはず、と言った健に二人はまた頷いて自分の書いた短冊を結びにかかる。
健は笹を押さえていなければいけないので変わりに自分の短冊を剛に渡して結んで貰った。
そしてふと気づく。
「・・・あ、なになに。みんな似たような願い事じゃん」
「あ?おーマジだ。うわー俺たち超恥ずかしぃー」
健の一言にうひゃひゃと笑って剛がそう返したので、岡田もどれどれと自分の書いた短冊と二人の書いた短冊を見比べてみる。
「・・・あ、ホンマや」
剛の言ったとおり、酷似したその内容に岡田も思わず顔を綻ばせた。
『これからもずっとずっと、V6でいられますように』
祈るような内容の短冊は健のもの。
『俺たちは永遠にV6!!』
簡潔な短冊の内容はいかにも剛らしい。
『これから先の未来がV6にとって明るいものでありますように』
そして丁寧に紡がれた文章は岡田が書いたもの。
文章表現の方法は違えども、内容は全く同じな三つの短冊。
三人は顔を見合わせて暫くの後、誰からともなくぷっ、と吹き出した。
「俺たちちょーV6ラブじゃん!」
またうひゃひゃっと笑って剛。
「そりゃそうでしょ。心底愛してるもん。ラブだよラブ」
妙な力説をする健に、
「むしろV6=愛くらいの勢いやな」
微妙に見当違いの答えを出す岡田。
もう一度三人顔を見合わせて笑い合った後、よし、と立ち上がり健を筆頭に屋上へと向かうべく楽屋を出る。
先に立って歩き出した健の隣に剛が並んで、その後を岡田が追った。
と。
「ん?」
ひらひらと。
笹から外れて落ちてしまった二枚の短冊を、それに気づいた岡田が拾い上げた。
先に歩いている剛と健は当然気づかずにさっさと歩いている。
二人の後を追いかけながらなんとなくそこに書かれた文章を眺めてみて、岡田ははたと足を止めた。
黄色とオレンジ、二枚の短冊に書かれた、筆跡は違うのに内容は全く同じ願い事。
それは。
『身長がせめてあと5cm伸びますように』
「・・・あ。」
見てはならないようなものを見た気がして、思わずこぼした岡田の声に気づいた二人が岡田が上げた声の理由に気づいて
一瞬で顔を真っ赤にしてから大慌てで岡田から短冊を取り上げた。
「わーっ!!岡田何人の短冊見てんだよっ!!」
「ばっ・・・バッキャロー!!人の願い事見んじゃねぇ!!」
「・・・二人とも、実は気にしてたんか」
なんだかちょっと遠い目になってそう言った岡田に二人はぶんぶんと首を横に振る。
いや、今更否定したって意味ないから。
「男は身長やないって・・・」
しみじみとそう言ってぽんぽんと二人の肩を叩けば、
『170あるお前に言われたくないっ!!』
ときっちり揃った声が返ってくる。
吹き出しそうになるのを堪えて、岡田は精一杯の普通の顔でキッパリと言った。
「男はハタチ過ぎたら身長の成長は厳しいで」
『・・・岡田ー!!!』
「うおっ!!?」
このやろう!!と二人に一斉に飛び掛られて体を仰け反らせる。
重っ!!との声にも動じることなく、剛と健は岡田に報復をしかけた。
「苦しい苦しい!ギブギブ!!」
「許さん!」
「うひゃひゃっ!身長の恨みはでけぇぞ!!」
はたから見ればただじゃれあう三人にしか見えないため、時々傍を通るスタッフがくすくすと笑って通り過ぎてゆく。
余計な一言を言ってしまったがための二人の一斉攻撃に岡田はただひたすら謝るしかない。
「ごーめーんて!俺が一言多かったですー!!」
「ごめんですんだら警察はいらねぇ!!」
「右に同じー!!」
うりゃうりゃと健がわき腹をくすぐり、剛が岡田にプロレス技をかける。
そして廊下でそんなことを繰り広げていた三人に降ってきた、呆れたような色を含む耳に心地いい声。
「・・・お前ら恥ずかしいからそういうことは楽屋でやれ」
『あ。』
意図せず重なった三人の声。
剛と健はまっすぐ前に立つ人物を見つめ、岡田は二人にしがみつかれているため首だけを後ろに仰け反らせて声の人物を見た。
そこにいたのはすらりとした体躯の持ち主、坂本であった。
端正な顔に呆れたような苦笑を浮かべて三人を見ている。
そしてその後ろにはさらにもう二人の人物。
「何三人でじゃれあってんの?せっかくの笹がぼろぼろになっちゃうよ」
そう言って優しい笑顔を浮かべたのは長野である。
しかしその微笑みとは裏腹にたかたかと歩み寄ってきて仰け反っている岡田の額を楽しそうにぺちぺちと叩いてきた。
「たっ!いたっ!何すんねん博ぃ〜!」
「いや、面白い状態だなと思って」
そう言って笑う長野の笑顔に岡田は『黒い・・・』と心の中で呟く。
「なーんだ、三人も笹貰ってたんだ。じゃあわざわざ持ってくる必要なかったか〜」
残念〜とどんじりに居た井ノ原が持っていた笹を軽く振った。
どうやら彼らも笹を貰ったらしく、折角ならとカミセンの楽屋まで足を運んだらしい。
(最近V6としての仕事でもトニセンとカミセンに楽屋分けされていることが多いため、今日も彼らの楽屋は別だった)
井ノ原の持つ笹には既にいくつかの短冊が括りつけられており、彼が振るたびにかさかさと乾いた音を立てている。
「お前らどっか行くつもりだったんだろ?」
笹持ってどこに行くんだ?と首を傾げた坂本に岡田に飛びついたままの状態で健が笑って屋上に、と答えた。
「天気いいし、せっかくなら飾ったほうがいいでしょ?」
「あ、それいいね♪坂本くん、長野くん、俺らも屋上に持ってこうよ、コレ」
「いいかもね。ほら、二人ともいいかげん岡田離してやりな」
「へーい」
「はーい」
長野の言葉に剛と健が素直に従ったので、ようやく岡田は二人から解放されてふぅとため息をついた。
「じゃみんなで行こ〜♪」
上機嫌でそう言って片手を上げた健に、井ノ原一人がノリノリでおー!!と答える。
まあそんなテンションの違いもいつものこと。
「じゃあ行くか」
坂本がそう切り出せばみんなが頷き笑顔を見せる。
そんなわけで結局V6全員が揃って屋上へと赴くこととなった。
「よし、こんなもんかなっ」
強い日差しとむわっとするような熱気の中で、ふい〜っと顔に滲み出した汗を腕で拭って井ノ原がにかっと笑った。
「こっちもオッケー」
隣で同じく額に汗をにじませている健が親指を立てる。
六人は屋上まで上がり、自分がやりたいと言った井ノ原と健が笹を屋上の手すりへと括りつけた。
笹の葉と短冊が風に揺れて気持ちよさそうにはためく。
「しっかしあちぃな〜」
着ているTシャツをつまんでばたばたやりながら坂本がいかにもダルそうにそう漏らすと、涼しい顔をした長野が
「そりゃ夏だからねぇ」
と至極当たり前な答えを返す。
それにじろりと睨みで返してみたが、妙に迫力のある笑みで更に返されてしまったので大人しく
「そうですね・・・」
と呟いた。
「坂本くん尻に敷かれてるよなぁ」
「カカア天下の方が家庭内は円満だって聞いたことある」
「だからここまで来れたんだろ」
「そやなぁ」
「・・・お前らなぁ〜」
好き勝手に言った井ノ原・健・剛・岡田に対し、眉間に盛大なタテジワを作って坂本がずずいと詰め寄る。
それを面白そうにはははっと笑って眺める長野は何処か人事のように構えている。
この貫禄こそが『さすが長野くん』という言葉に繋がるのかもしれない。
「笹も飾ったことだし、そろそろ行かないと撮影始まるんじゃない?」
とりあえず一番近くにいた井ノ原を締めていた坂本は、その長野の一言にそう言えばまだ撮影前だったんだと今更ながらに思い出す。
ギブギブ!ともがいていた井ノ原から手を離して、よーしと声を上げた。
「じゃあ戻るか」
「うん。本番前にこの汗なんとかしなきゃだしねぇ」
すっかり汗ばんでしまっている全員を見渡して長野が苦笑する。
これは服も着替えなければダメかもしれない。
「うーし撤収ー」
そう坂本が声をかけて六人はぞろぞろと屋上の扉を中のほうへとくぐっていく。
そんな中ふと、後ろを振り返って岡田は一人空を見上げた。
眩しいくらいに照りつける太陽に、真っ青に晴れ渡った空。
どうやら今日は天気が崩れることはなさそうだ。
『・・・これなら織姫と彦星も会えそうやな』
にこりと微笑んで「岡田?」と呼ぶ健の声に「なんでもないで」と答える。
二人とも、無事出会えたら俺たちの願い叶えるんやなくて
俺たち自身の手であの願い叶えられるように見守っててくれや。
「頼んだで」
そう空の上にいるかもしれない相手に向かって呟き、最高の笑顔を向ける。
短冊に書いた願いは叶えて貰いたい願いではなく、自ら叶えたい願い。
強制されるでもなく、叶えられるのでもなく、自分たちの力で築き上げたい。
自分たちはずっとそうやって六人でやって来たのだから。
「俺めっちゃロマンチストっぽいな」
そう苦笑した後、何処か満足げな表情を浮かべてから岡田は五人の後を追った。
笹の葉と短冊が彼に答えを返すように
静かに流れる風の中をざわついた音を立てながら泳いだ。
そしてオマケの話。
「・・・所で長野」
「ん?何?」
「お前短冊にどんな願いごと書いたんだ?」
「え?なんで?」
「どうもいやーな予感がするんだが・・・」
「何それ。気のせいだって」
「・・・そうか?」
「そうだよ」
そう言って読めない微笑みを浮かべた長野の短冊の内容は、本人にしか分からない所。
END.
2004.07.07
≫Kohki's Comment.
初めての芸能ジャンル小説・・・いかがでしたでしょうか?
勝手が分からず四苦八苦しやした・・・
つーか捏造設定が色々と・・・何よりキャラが全然掴めてねぇ・・・(遠い目)
もはや本人たちの名前を借りただけのオリジナル小説になってる気もしないでもないですが
とりあえず七夕ネタをお送りしました。
こんなほのぼのを書いてみたかったんですよ。
しっかしなんて中途半端な話なんだろう。(汗)
いや、当初の予定ではカミセンだけの話で終わるはずだったんですよ。
それがどういうわけかトニセンも出張り始めてどんどん話が長くなってくる・・・!!
本当はトニの短冊話もこうなったら入れようかと思ってたりしたんですが時間的に無理でした。
そんなわけで無理矢理終わらせたのであんなんなってます。(笑)
苦情は心の中に秘めておいて下さい・・・(笑)
あーもっと精進しなきゃなぁ。