昼食を終え、三宅と別れて教室へ戻る道すがら。
またもやは聞き慣れた声に呼びとめられた。(何と言うデジャヴ)
「あっ、ちゃん!」
「え?って、あれ?井ノ原先輩」
「やっほー♪」
黒ぶち眼鏡の奥で細い目を更に細めてにこにこしているのは、の二つ上の先輩である井ノ原快彦だ。(そしてやはり彼もまた【Victory】のメンバーである)
いかにも人が良さそうな顔をした、高いコミュニケーション能力の持ち主である彼もまた、学園内外・老若男女問わずファンが多い人物である。
「さっきのお昼の放送聞いてくれた?」
「えっ?あーすみません、さっきまで三宅先輩と屋上でお昼ご飯食べてて・・・」
校内放送が流れるのはあくまで校内だけであり、屋外である屋上に流れる事は無い。
時折開け放たれた窓から漏れ聞こえる事もあったが、残念ながら内容が聞き取れるほどではなかった。
なのでが素直にそう答えると、オーバーリアクション気味にショックを受けた顔をした井ノ原が、唇を尖らせて言った。
「えー!?なんだよ健のヤツぅー!!」
今日の内容はすっげー面白かったのにー!と愚痴る彼は実は放送部部長であり、昼の校内放送『井ノ原快彦のなきにしもあらず』担当DJでもある。
日常生活の雑談からゲスト(もちろん生徒や先生である)を呼んでのトーク、それに井ノ原自身が作詞作曲を手掛けたオリジナルソングを流すなど、かなり自由度の高いその放送の評判は上々で、生徒から先生まで熱心なリスナーが多いんだとかなんとか。(ちなみに自身も嫌いではない)
「じゃー明日は聞いてくれよな!絶対だからな!いのっちとの約束だからなっ!」
「ふふっ、分かりました」
井ノ原があまりに必死な形相でぐいぐい来るものだから、はつい笑いつつも頷いた。
するとこちらも満足げにあはっと笑った井ノ原が、人差し指で鼻の下をこすりながらはにかんだ。(完全に芝居がかっている)
「明日の放送はちゃんのためだけに、とっておきのラブソング、一曲生で歌っちゃうからさっ☆」
「え」
いや、正直それはいらないです。
と、は喉まで出かかった言葉をぐっと飲み込んだのだった。
私グッジョブ!