「ぎ、ギリギリセーフ!」
キーンコーンカーンコーンと鳴り響くチャイムをBGMに駆け込んだ教室にて。
ガタガタと慌ただしく自席に座ったに向けられたのは小さな笑みだった。
「んふふ。さんが遅刻なんて珍しいね」
「あ、岡田くんおはよう」
「おはよう」
そう答えて麗しい笑みを向けてくるのは、のクラスメイトであり隣席の岡田准一である。(ちなみに彼も【Victory】のメンバーだ)
まるでギリシャ彫刻のように彫りが深く、非常に整った顔立ちをしている彼は、そのぱっちりとした大きな目で何故かをじいっと見つめてきた。
はて?
「岡田くん?もしかして私の顔に何かついてる?」
森田先輩に振り回されてる間に虫でも付いただろうか、とぺたぺた顔を触ってみただったが、どうやらそれは見当違いだったらしい。
んふふ、とまた笑った岡田は首を横に振ると言った。
「顔じゃなくて髪の毛。すごい事になってるよ」
「あー」
なるほど、そっちですか。
そう言えば坂本先生は制服は直してくれたけれど髪の毛までは直してくれなかったような。
くっ、森田先輩め・・・!!とは髪を直すより先に二年の教室の方へ恨みの念を送ってみたりする。
と、とんとんと岡田が肩を叩いてきた。
「あのさ。髪の毛、触ってもいい?」
「え?あ、うん?」
別にいいけどなんじゃろな?と思っていると、すっと岡田の長い指が伸びて来ての髪を丁寧に手櫛で梳き始めた。
どうやら悲惨な事になっている髪を直してくれるつもりらしいが、いやいやいくらなんでもそれは申し訳なさすぎる。
「お、岡田くん、いいよ!自分でやるよ!」
「いいからいいから」
慌てて遠慮の言葉を口にしてみたがしかし、岡田の手は止まることなく。
その上「大人しくしててな」と、レア度の高い柔らかな関西弁プラス微笑みで言われてしまえば、としては大人しくされるがままでいるしかないわけで。
なんかすみません、全ては森田先輩が悪いんです、と心の中で唱えて、その状況を甘んじて受け入れることにした。
「ん。こんなもんかな」
程なくして。
髪を整え終えたらしい岡田がそう言って、終了の合図とでも言うようにの頭を軽くぽんと叩いた。
「ありがとー」
「一応自分でも確認してみて」
「うん」
早速学生鞄から手鏡を取り出して確認してみたが、確かに髪は綺麗に整っている。
と言うかこれはむしろ・・・
「おお、出掛けより綺麗かも」
「えぇ?そんなことないでしょ」
「いやいやそんなことあるよ!!」
力いっぱいそう言って見せるは、基本的に不器用で大雑把な人間である。
そして髪のセットにそう気を使うタイプでもない。
ので、朝はいつも髪に櫛を通す程度のことしかしないのだ。
「本当にありがとう!」
「・・・・・・」
重ねた感謝の言葉に、ぱちりと大きな目を瞬かせた岡田は。
「・・・うん」
こくりとひとつ頷いて。
「どういたしまして」
と、はにかんだ笑みを浮かべた。