多分今の自分は死相が出てるんじゃなかろうか。

ようやく辿り着いた学園前。
ぜはぜはとが肩で息をしていると、汗一つかいていない森田がにかりと笑って言った。

「ギリギリセーフ♪」

・・・まぁ確かに間に合ってはいますけども、危うく死人が一人出るところでしたよ?
視線だけでそう訴えてかけてはみたものの、森田の視線はの方ではなく別の方向に向いていた。
はて?

「うっわ、今週の当番坂本かよ・・・」

心底嫌だ、と言う顔で森田が言ったその言葉に、もちらりとそちらに視線を送ってみる。
と、確かに校門には見慣れた白衣姿の男が立っていた。
あれは間違いなくのクラス担任である(白衣姿なのにもかかわらず英語担当教諭である)坂本昌行だ。
どうやら今週は彼が朝の当番(主に生徒の服装チェックが仕事)らしく、駆け込んでくる生徒にはっぱをかけつつ鋭い目を光らせている。

「めんどくせぇ。、俺裏門から行くわ。じゃあな」
「え?あ、はぁ」

森田はどうやらこの坂本が苦手らしく、言うなりさっさと踵を返して裏門の方へと行ってしまった。
その背中をぼけっと見送っていたら、不意に背後から声が聞こえてきて言った。

「まぁーた逃げやがったな、剛のやつ」
「え?って、うわ!坂本先生!?近っ!!」
「よぉ、。朝から元気だな」

にっと笑った強面ながら男前の顔が存外に近くにあったのでつい飛びのけば、坂本はのほほんとそんなことを言う。
が一人あわあわしていると、くしゃっとした顔で笑った坂本が手を伸ばしてきて、悲惨な有様になっている制服と胸元のリボンを綺麗に直してくれた。

「お前が遅刻ギリギリなんて珍しいな。髪も制服も酷いことになってるぞ。どうやって走ったらこんなことになるんだ?」
「いや、まぁ、それは森田先輩が・・・」

たはは、と笑っていると合点がいったような顔をした坂本が「ご苦労さん」との頭をぽふぽふと叩いた。

「もう予鈴が鳴るぞ。急げよ」
「はい。あ、先生」
「ん?」
「言い忘れてました。おはようございます」

うっかり忘れていた朝の挨拶を今更ながら言ってみると、坂本はふっと口元を緩めて。

「おはよう」

女生徒の間で密かに人気のある男前の笑顔で応えてくれた。