カンペキに遅刻だ!!
今時漫画にもありはしないような、見事なまでの【遅刻しそうな女子高生スタイル】では朝の住宅街を駆け抜けていた。
それはつまり、トーストを口にくわえた状態で「遅刻しちゃう!!」(実際はトーストをくわえているので「ひほふひはふ」)などと言いながらばたばたと走るスタイルのことである。
これには大抵オマケのように曲がり角で誰か(主にイケてる男子)にぶつかるというお約束の展開がついているものであるが。
そのご多分に漏れず、は学園まであと少しの曲がり角で見事に誰かとぶつかった。
「うわっ」
「きゃ!」
ぶつかった衝撃でトーストは飛び、はどすんと尻餅をつく。
あイタタタ・・・と唸っていたら、狼狽した声が頭上から降ってきた。
「わ、わりぃ。大丈夫か?」
逆光の中で相手のピアスがちかりと光を放つ。
相手を認識しようと目を細めたら、その前に武骨な手が差し伸べられた。
「ほら」
「あ、ありがとうございます」
「ん?あれ、じゃん」
「え?あ、森田先輩?」
「おう」
鋭い犬歯を見せてにかり、と笑ったのは確かに森田剛その人だった。
サッカー部のエースストライカーで、その類稀なる実力と見目の良さに学園内外問わずファンの多い彼は、が所属している謎の部活動【Victory】の先輩でもある。
(謎の部活動というだけあって、この学園において【Victory】のみが兼部可能なのだ)
ブレザーの前ボタンは全開、ワイシャツも第二ボタンまで開かれている上にノーネクタイの彼は校則違反の常連として有名でもあり、色んな意味で目立つ人物だった。
ちなみに左耳に光るピアスも当然の如く校則違反である。
「お前も遅刻組?」
「今日はたまたまです!!」
「うひゃひゃ。んじゃー一緒に走っか?」
「え?」
機嫌良く笑った森田にまだ手を取られたままだったことに気づいた一瞬の後。
その手をぐいと引っ張られて、はあっという間に引きずられるように走る事になってしまった。
「うわ、ちょ、ちょ、ちょ、森田先輩っ!?」
「閉門まであと五分だぜ!飛ばすぞ!!」
「うきゃー!!」
エースストライカーである森田の足についていくのは、運動がからっきしなにとっては至難の業である。
もつれそうになる足を懸命に動かして、まさに必死の形相で森田に付いて行くのだった。