今年の年末年始はみんな一緒じゃないんだよね、って。
そうつぶやく君の横顔がとても寂しげに見えたから。
君の事が大好きな僕たちは、全ての予定をキャンセルして。
驚く君の手を引いて、年明け間近の世界に車をかっ飛ばした。
「うっ・・・わぁー・・・」
水平線に顔を出した太陽に、長野は感嘆の声を上げた。
目の前に広がる海にぷっかりと浮かぶ朝日。
それは一月一日、2009年元旦の初日の出だった。
「すーごいきれーだねー♪」
「やっぱ来て良かったよねぇ〜♪」
「でもさみぃ・・・」
「それは我慢しようよ、剛くん」
賑やかしく海辺で交わされる仲間たちの会話に、長野は穏やかに微笑む。
都内より車を飛ばして数時間の某所海岸にて、開かれた2009年元旦の初日の出観賞会。
それは長野に突然訪れた突飛な出来事だった。
何せそれは昨日の夜、大晦日の晩に何の前触れも無くやってきたのだ。
「でもほんと、びっくりしたよ。いきなり全員で家に来たと思ったら何も言わないで車に押し込むんだもん」
なんのドッキリかと思ったよ、と長野が苦笑気味に言えば隣に立っている坂本がにやりと笑う。
「サプライズらしいからな。言っちまったらつまらないだろ?」
「そりゃそうだけど。発案者はもしかして井ノ原?」
「まぁ発起人が井ノ原で全員が大いに賛同したってとこだな」
「つまり坂本くんも?」
「まぁ半分はそういうこと」
そう答えて何故か含み笑いを浮かべた坂本に首を傾げると、可笑しそうに彼はもう一言付け加えた。
「みんなお母さんが大好きなんだってよ」
ほんと母親離れできない連中だよな、と本気なのか冗談なのか分からない事を言ってにっと笑う。
それに対し長野が呆れ顔と苦笑を織り交ぜて曖昧な笑みを作れば、お前この間言っただろ?と坂本が事の経緯を話し出した。
「今年の年末年始は皆一緒じゃないんだよねってさ」
「え?あぁ・・・そういえばそんなことも言ったような・・・」
ただそれは事実の確認を何気なく口にしただけで、長野としては特別な他意はない。
素直にそう言うと、やっぱり可笑しそうに笑った坂本はそうだと思ったよ、と言った。
「ただあいつらにはそれを言ったお前が寂しそうに見えたんだとよ」
「えぇ?」
「で、長野くんに寂しい思いをさせちゃいけない!!ってなわけで何だかんだ考えた末こうなったと」
「それはなんと言うか・・・どうしよう?」
「いいじゃねぇか。素直に喜んどけよ」
お母さんが笑ってりゃあいつらは喜ぶんだからよ、と笑う坂本の顔はまるで父親のそれのようだ。
なんだかなぁと思いつつ、それが可笑しくて笑うと、ふいに不満げな声が二人の間に割って入った。
「ちょっとぉーなんで二人で盛り上がってんのよそこー!!」
「また坂本くんが長野くん独り占めしてるー!!」
「いいかげん長野くん離れしろよな、坂本くん」
「そうだそうだ」
口々に言って然る井ノ原・剛・健・岡田の四人に坂本はげんなりとした顔で。
「・・・お前らに言われたくねぇよ」
と、ツッコミを入れる。
そうすれば喧々囂々反論が返って来るわけで、それが永遠に終わらなさそうな不毛なやり取りになる前にと長野は話を変えるように先からの心配事を口にした。
「剛、明日・・・って言うかもう今日か。生放送の仕事だろ?大丈夫?」
「あーへいきへいき。放送は夕方からだし、俺まだピチピチなんで!」
ニッと笑って八重歯を見せる剛は今年で三十歳になる。
正直もうピチピチと言える年齢ではないのだけれど、見た目のせいか、それとも昔からの印象か。
その言葉をすんなりと受け入れてしまえるのはちょっと得だよなぁ、なんて長野は思ってしまう。
とは言え彼の内面は年を重ねるにつれ深みを増して、年相応の大人へと変化を遂げている。
ソロコンを経てますます成長した彼を、長野は頼もしいとも思うのだ。
「剛のサッカーするとこ見るのすんごい久しぶり♪俺現場に観に行ってもいい?」
「あぁ?別にいいよ、くんなよ。家で観てろって」
「えー」
剛の背中にへばりついて、つれない返答に唇を尖らせる健も思えば同じく今年三十歳だ。
十代の頃からそう変わらない幼い外見や言動に、井ノ原あたりは「健が本当に三十歳になれるのか心配」なんて冗談を口にしたりするけれど、長野はそれを心配したりはしていなかった。
こう見えて健は案外しっかりとした一面を持っているのだ。
自分たちが心配などしなくても、彼は彼なりに歳を重ね、自分のペースで成長して行くことだろう。
いい意味で無邪気に、そして自由なままで。
「俺も観たいな。剛くんがサッカーやってるとこ」
「あぁ?お前までなんだよ」
「だよなー!観たいよな!じゃあ一緒に押しかけようぜ岡田♪」
「んふふ。うん」
健の「押しかけよう」と言う言葉に頷きながらも若干の苦笑いを浮かべる岡田は、メンバー内最年少ながら近年の著しい急成長により随分と大人になってしまった。
それ故に昔の赤いほっぺで無邪気な彼を思い出すと少し寂しい気がするのは多分長野だけではないだろう。
けれど六人で居る時にだけ見せる、V6の末っ子の表情は今も変わらず。
それだけはずっと変わって欲しくないなぁなんて、つい親心のように思った。
「えーじゃあ俺も観に行くぅ〜♪」
「うげっ、うざっ!!」
「もー井ノ原くん来るなよ〜!!カミセンだけの会話なんだからさ〜!!」
「んな寂しいこと言うなよ〜!!俺も混ぜてくれよぉ〜!!オカダー!!」
「ぬおっ!なんで俺んことに!?」
「あはあは♪」
カミセンに構ってもらって至極嬉しそうな顔の井ノ原は成長してるんだかしてないんだかどうにも判別しづらいヤツである。
とは言え彼ほど人生に対して真摯に、真正面から向き合って楽しそうに笑ってる人間はそう居ないんじゃないかと長野は思っている。
持ち前の明るさと人懐っこさ、それに人脈は、彼にとっても、またV6にとってもとても大事なものだろう。
言うなれば彼はメンバー内の調和なのかもしれない。
「なんつーか・・・今年も見事にいつも通りだよなぁ、お前ら・・・」
成長しねぇよな・・・とどこか遠い目で四人を生暖かく見守る坂本は長野にとって、メンバー内で一番長く人生を共にしている相手だ。
その分共有してきた苦労や喜びは数知れないし、それはきっと、この先もずっと長く続いていくものなのだろうと半ば確信している。
強面なのにへたれで、涙もろくて、それに誰よりもV6を愛している人。
彼がいるからこそ、このグループは形を保っているのだろうとも思う。
そして自分は、そんな五人と共に在れる幸せを日々噛み締めているのだ。
奇跡か、偶然か、必然か、そんなのは分からないけれど。
こうして今を共に生きている、六人でいられることに感謝して。
「・・・おい、長野?なんなんだその含み笑いは」
「なんつーか、今までに無い笑顔の種類だねぇ、長野くん」
「つーかなんかこえぇってそれ」
「うわーやめようよ長野くん」
「その笑い方はないでしょ」
なんだか失礼な事を口々に言い合うメンバーたちはまぁとりあえず無視の方向で。
思いがけないサプライズを貰って、改めて気づいた幸福を噛み締めながら。
長野はそれを口にする。
「V6って、愛しいグループだよね」
我ながらくさいセリフだと分かっていたし、笑われるかもしれないと覚悟していたのだけれど。
予想外に、返ってきたのは五人の仲間たちの優しい微笑みで。
それだけで全てを分かり合える自分たちの関係を心底愛しいものだと思った、
2009年、始まりの朝だった。
END.
≫Kohki's Comment.
※2009年の元旦にTRASHブログにアップしたものを収納。
ちなみに年明け前に書き上げ、ブログに予約投稿したものなのですが。
いざ年末年始を迎えてみたらカウコン全員出てるし剛つんの番組は生放送じゃなかったしで色々残念な小説となりました。(笑)
以下TRASHブログのコメント掲載。
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小説の書き方を完全に忘れている自分に苦笑しながら書いてみた2008年の総決算的小説。(笑)
ぎこちないのは許して下さると幸い。
2009.01.01.Tuesday TRASHブログアップ。
2014.06.06.Friday 小説ページへ収納。
background:足成