Breath - 雪白の月

『また来年も』

口にするたびその言葉の重さに気づいてしまう。
『また来年も』果たして自分はこの場所に立っていられるのだろうか。
『また来年も』この不安定な足場の上に存在していられるのだろうか。
こういう職業だからこそ。
そんな風に自分に投げかける問いは尽きない。

「うぉ〜さみぃ〜っ!こんな格好で外出るもんやないなー」

選択間違えたわ!と寒さで縮こまりながら笑う相方は、上着を羽織ることも無く、薄いステージ衣装のままで。
リフレッシュしに来たのか凍えに来たのか分からんわ、などと言って少しでも暖を取ろうと腕をこすリ始めた。
そこまでして外に居る必要も無いような気がするけれど、彼がそこまでしてもこの場所に居る理由は分かっていた。

きっと、彼は付き合ってくれているのだ。
その理由は分かっていないのかもしれないけれど、どこか陰鬱でいる俺に。

「おーめっちゃ息白っ!」

いつもより随分とテンションを上げた彼が、そう言ってはぁっと吐き出した息は確かに白く。
遥か頭上のお月様へと緩やかに昇って行く。
無言のままその軌跡を見守っていた俺に、やがて届いたのは。
低く、小さな声で紡がれた、確かな言葉。

「また来年も、一緒に頑張ろうな」

心を動かされる言葉は数多くあれど、これほどのものはそうは無い。
大袈裟かもしれないけれど、彼の言葉は偉大だと思った。
ふわっと軽くなり、ほっこりとした暖かさを俺にくれる彼。
息をつける時間。
あぁ、こういうのは悪くない。
この『また来年も』は俺にとってすごく心地いい。

こらえきれずに密かに微笑みを零した俺を見ていたのは、
物言わぬ雪白の月だけだった。

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Photo:ogawanaoki takes.