「どないしたん!その怪我!!」
午前中に処理を終えた書類をまとめている時、隊長である光一が帰ってきた。
昼食を五番隊の長瀬と一緒に食べに行くと言って出て行った彼が、何故か腕から血を流して。
「ああ、大丈夫や」
「大丈夫やって、そんな血流して!」
「ごめん!俺が力の加減ができなくって…!」
光一の後ろから入ってきた長瀬は焦って俺に言った。
光一が大丈夫だといっても全然大丈夫には見えない傷。
「気にせんでええって。お前も自分とこ隊舎に帰り」
「でも…」
「お前がそこに居ても何も出来ないだろ」
「太一くん!!」
「まったく…ごめんな、光一」
「いや、ほんまに大丈夫やから」
「つよし、後頼むな」
「え、あ、はい」
いつの間にか長瀬の後ろに居た太一くんがこちらを気にしている長瀬を引っ張って帰った。
長瀬はずっと視線を外さず、「ごめんねーー!!」と叫んでいた。
それが遠ざかってもう聞こえないところまでなった時。
光一がどさりと椅子に倒れこむように座った。
「やせ我慢もええ加減にせぇや」
「長瀬が気にするやろ」
「ほんまアホやな、光ちゃんは」
「アホって言いなや」
「ええかっこしぃや」
ある程度傷を治して、くるくると包帯を巻く。
光一ほどきれいには治せないが、俺もある程度までなら治す事ができる。
今はほとんど使われない力ではあるが。
「包帯なんていらんて」
「あかん。大体傷を治す側が傷を作ってどないすんねん」
「俺は自分の傷は治すことはできんからなぁ」
「で、どないしたんや、この怪我は」
「ああ、昼飯食った後にな、腹ごなしにちょっと手合わせしたんや。その時にな」
「長瀬はこの後太一くんから特訓やな」
「やろうなぁ」
俺の言葉に、光一はふふ、と笑い、巻かれた包帯を触る。
「お前に包帯なんて巻かれたの久しぶりやな」
「俺がきれいに治せたらええんやけど…」
「いや、これで十分や。お前がきれいに治せたら俺のおる意味がなくなるやろ」
「そりゃそうやな」
いつも座っている椅子とは違う患者用の椅子から立ち上がり、光一は俺の肩をポンと叩いて。
「ありがとうな」
と、微かに照れながら言った。
「どういたしまして。もう怪我はせんといてくれよ」
「善処します」
「よし。午後からも仕事がいっぱいやで」
「あー…俺は怪我人やから…」
「何か言ったか?」
「いえ…よーし、やるかぁ!」
「その意気や」
その後、隣の五番隊の隊舎から長瀬の叫び声が聞こえてきたのはまた別の話。
太一くん…殺さん程度にしといてや…。
俺はその叫び声を聞きながら、長瀬用の薬と包帯その他を用意した。