最近頓に六人で居る事が多い。

その日もいつものようにコンサートの打ち合わせで全員が集合していた。

10月下旬、とある日の、何でもないと言えば何でもない、

至極いつも通りの出来事。









健がまた変なことを聞いてきた。

「ねぇねぇ、十年一昔とかって言うけどさ、なんで人って十単位で区切んの?」
「はいぃ?」
ストレートにぶつけられた疑問の声に、坂本は思わず素っ頓狂な声で答えた。
打ち合わせの休憩時間、休憩室内にて。
いつもの健の何で何で攻撃が、今日はたまたま近くにいた坂本に向いたのだった。
コイツまた変な質問して来やがって、と彼は内心で思わずつぶやく。
十年一昔の意味を聞かれるならまだしも、何故十単位で区切るのかと聞かれると流石に答えに窮する。
そんなもん十で区切ろうと思った人間に聞いてくれよ、とは流石に言葉には乗せられない坂本である。
「ねぇねぇ何で何で何で〜?」
「・・・健ちゃん、何事にも興味を持つのは結構だけど、聞く相手は選べ?」
「なんだよもー役に立たないなぁ。坂本くんってほんと無駄に年取ってるだけじゃん」
「・・・お前、そりゃないだろ」
坂本に軽い(いや重い)ジャブを放った健は、軽く凹んだ彼の元をさっさと離れて次なるターゲットの元へと歩み寄っていた。
「ねぇ、岡田」
「ぅおっ!?俺!?」
どうやら二人の会話が聞こえていたらしい岡田がこれまた坂本と同じく素っ頓狂な声で返す。
それにちょっと健は不機嫌な顔で唇を尖らせた。
「だっておじいちゃん使えねーんだもん。お前読書家だからそういう知識あるんじゃないの?」
「そりゃ本は好きだけど・・・」
「なるほどな。岡田なら本読んでるもんなぁ」
話の矛先が岡田に向いたので、凹みが復活した坂本が無責任にもそーだよなぁなどと相槌を送る。
「いや・・・でもそんなん聞かれても・・・」
いくら読書家でも分かる範囲と分からない範囲の話がある。
全てを知っていると思ったら大間違いである。
怨むで坂本くん・・・
岡田のくりっくりの大きな目が坂本に実に恨みがましい視線を向けたが、彼は気づかないふりだ。
「ねぇー岡田もわかんないの?」
「ご・・・ごめん」
「もーじゃあ後分かりそうなのって誰だよ・・・井ノ原くんは無いでしょー」
「って健ちゃん!?俺聞く前から無し!?」
どうやらやっぱりこちらも話が聞こえていたらしい井ノ原が、健の心無い一言にちょっとぉ〜!!と健に絡み始める。
が、健の対応は至極冷たいものだった。
「だったら分かんの?」
「・・・いや、あの、すいません、分かりません」
「だったらわざわざ絡んでくんなよ」
「・・・ごめんなさい」
どこか11月から上映される彼ら主演の映画での彼の役を思わせる対応で井ノ原の周りに軽くブリザードを降らせた健は、次なるターゲットの元へととてとてと歩み寄って行った。
「ご・・・」
「つーかそれは俺に聞くべきじゃねぇだろ絶対」
「・・・やっぱり?」
「俺は知んねぇ。以上!」
話しかける前に剛にはあっさりきっぱりとそう返されてしまって、出鼻をくじかれた健はとぼとぼと、最後に控える人物の元へと歩み寄った。
「長野く〜ん・・・」
「あはは。やっぱり俺の所まで来たか〜」
大らかに笑ってそう返したのはもちろん長野である。
もう答えは出ないんじゃないだろうかとすっかり意気消沈した健の顔に彼は苦笑する。
「やっぱりわかんない?」
「うーん・・・そうだなぁ。これは俺論なんだけど・・・」
にこり、と長野は微笑みかけて、きょとんとした顔の健に『俺論』なるものを説いた。
「十って言う数字で一区切りにするのは、人間の両手で数えて置ける数が十までだから、じゃないかな?」
「え?」
思わず問い返す健の前にずいと両手を開いて見せて、長野は言葉を続ける。
「両手の指は全部で十本。だから人が一人で数えられる数は十まで。指折り数える、なんて言葉があるくらいだからね。人の数の基準は指なんじゃないかな。まぁそれが正しいかどうかは分からないけど・・・」
そこで一度言葉を留めて、いつの間にやら興味津々な顔で自分を見ている他の四人と健の視線にちょっとくすぐったそうにしながら彼はさらに言葉を繋いだ。
「人間はきっと、両手以上のものは抱えきれないんだよ。だから両手で数え切れない十年以上の時はもう昔。ずっと遠い過去になるんだと思う」
だから十年一昔なんて言葉が出来たんじゃないかな、と括って長野は穏やかな笑みを浮かべた。
「以上、俺論でした。正誤は分からないけど、これでちょっとはすっきりした?」
『なんか・・・目から鱗』
「それは良かった」
長野としては健に問いかけたつもりの言葉だったのだが、それに大きく頷いたのは五人全員で。
彼はそのなんだか微笑ましい光景にちょっと可笑しそうに微笑んだ。
と。
「あ・・・じゃあさじゃあさ!」
「ん?」
急に何かを思いついたかのような健が何を言い出すのかと思いきや、彼は不意に長野の手を取って。
「これで長野くんの十年と俺の十年が繋がって二十年だね♪」
などと言って向日葵のような笑顔で笑った。
「二人が揃うと両手で数えられるのは二十まで・・・人が一人増えるたびに十年単位の年が数えられるって言うのってなんかいいね♪」
「はは。なるほどね。その論で行くと俺達は六人居るんだから六十年繋がるわけだ」
「そうそう。あ〜でも六十年後はちょっと想像出来ないなぁ。絶対に天に召されてるわけでしょ?何人かは」
それにぴくりと少々頬を引きつらせて返すのは上の三人。
しかし今から六十年後では平均寿命が延びている昨今とは言え、下三人だって危ういといえば危うい。
まぁそれはともかくとして。
「でもさ、俺達はまた一人分の両手の時間しか来てないんだね」
「うん、そうだね。そう考えると十年ってまだまだだよね」
「そうそう。俺達はまだまだ、発展途上でしょ〜♪」
「目指せ、六人分の手かぁ?」
「流石にそれは厳しいとは思うけど・・・目標を持つのはえぇんちゃう?」
「うひゃひゃ♪ま、とりあえず、二十年後目標に始めるって事でいいんじゃねぇ?」
剛の提案に誰もが頷いて、そして一斉にぷっと吹き出す。
「ははっ。なーんか、俺達凄いこと言ってねぇか?」
「ふふ。だよねぇ。ちょっと話が大きくなりすぎてる感じ」
「でもいいんでない?夢と目標はでっかく行かなきゃさぁ!」
「ヨボヨボのジジイになってもステージに立ってたら笑えるよな♪」
「んふふ。みんな元気なお年寄りになってるんとちゃう?」
「うん。それって、すっごい幸せなことだよね♪」
しみじみと幸せをかみ締めるように、健が言った言葉にやはり誰もが頷く。
それは六人で共有出来る幸せの形だ。







十年の節目に、全員で自分の両手を見つめて昔を振り返る。

たまにはそんな日があってもいいのではないだろうか。

そしてその後は六人全員で手を繋いで、繋がる時と幸せを確かに感じるのだ。


満面の笑みの健が両手を突き出して満足そうにそれを見つめている姿を、

みんながみんな微笑ましく思って見つめた。








それが、彼らのいつも通りの光景。



それが、彼らのいつも通りの日常。










END.






***** COMMENT *****
初めましての方もそうでない方もこんにちは。
桐堂光騎(トウドウコウキ)と申すものです。
リテイクを繰り返してしてようやく形になりました今回の小説。
なんとか短くまとまって良かった・・・ほんと良かった・・・(汗)

さて、10と言うお題で自分が真っ先に思いついたのがこの両手の指の話でした。
もちろんこのお話は完全にワタクシめの作り話。
あえて井ノ原さん風に言うのであればメイキングストーリーでございます。(笑)
途中で何回か自分で何が言いたいのか分からなくなりました。(をい)
まあそれは置いときまして(置いといていいのかはこの際気にしない方向で)、うちのサイト基本のほのぼの六人組(かつ良い所は長野博が持っていく・笑)、少しでも楽しんで頂けたのであれば幸いです。

最後に、双葉。様及びここまで読んで下さった皆様に感謝を込めて・・・

桐堂光騎拝。


Background Image By.Littel Eden