C-NOVEMBER
Side:Yohihiko Inohara&Hiroshi Nagano
Extra scene:Admit that one's mind is full of envy.
嫉妬に狂った男ほどみっともないモンはないと思うけど。
自分の感情がそれに近いことに気づいてからは、他人の事を笑えなくなった。
そう、嫉妬。
多分、俺の中の感情はそれに一番近い。
冷静にそう思う自分ほど厄介なものはないって、俺は知っているから。
大人のフリをして上辺だけで誤魔化す。
それはいつだったかあの人にも言われた。
俺の悪いクセだ。
**CALAMITY NOVEMBER**
Side:Yohihiko Inohara&Hiroshi Nagano
「組織を抜ける?」
「うん」
きっぱりと頷いた、その瞳はどこまでも真っ直ぐだった。
「・・・それは、また、思い切ったこと考えるね、あんた」
「やっぱりそうかな」
「そりゃーそうでしょうよ。ウチの組織がどんだけおっかないのか、誰よりあんたが一番良く知ってるっしょ」
「まぁ、ね」
答えるその人は、笑える状況じゃ全然ないってのに余裕の笑みまでかまして言う。
「でも、だからこそ、俺にはそれが出来ると思ってるんだよね」
「・・・何もかも覚悟の上、ってことなわけね」
「そうじゃなきゃ、こんなこと言い出さないよ」
ナルホド。
つまり俺が今更止めたところで何の意味もないってことね。
だったらなんで、それを今俺に話すんだか。
「で、なんでそれを俺に話すワケよ。俺、これでも一応組織のナンバーツーなんですけど?」
「もちろん知ってるよ。でも、井ノ原にだけはちゃんと話しておかないとと思ったからさ」
「・・・俺にだけってことはつまり、剛には何も?」
「言ってない」
ちょっと複雑な顔で言うその人は、殊更優しい声で呟く。
「あいつを、巻き込むつもりはないんだ」
「・・・・・・」
あんたさ、その認識絶対間違ってると思うよ。
でもムカツクから、俺はその忠告を飲み込んだ。
「・・・俺とあいつと、何が違うんだろうな」
「え?井ノ原何か言った?」
「・・・いーえ、別に」
剛も俺も、この人に拾われてここにいる。
スタート地点に違いは無い。
でもこの人が俺に向ける瞳と剛に向ける瞳とでは明らかな差がある。
それは一体、なんなんだ?
「で、それじゃあ剛には何も言わないで行くつもりなわけ?」
「その方がいいと思ってる。だからさ、井ノ原。あいつのこと、よろしく頼むね」
「・・・・・・」
それ、実は一番言われたくないセリフだったりするんですけど?
信頼してるよって、その真っ直ぐな目が言ってる。
たまらなく、居心地が悪い。
俺は剛ほど真っ直ぐに、あんたの事を信じられない。
世界をあんた一色には出来ない。
多分、そうなるには歳を取り過ぎたんだと思う。
色んなものを知って。
色んな世界を見て。
俺は自分が思っているよりもずっと、汚れているんだと思う。
それが、剛と俺の決定的な違いなんだ。
「長野くん」
「うん?」
俺がここで行かないでと駄々をこねても、あんたは立ち止まっちゃくれないんだろう。
「俺は、あんたの敵になるよ?」
俺はあんたに平気で銃を向けられる。
その引き金を引くことが出る。
でもそう言ったところで返って来る反応は分かりきっていた。
「お前は正しいよ」
笑って。
躊躇いなく俺に背を向けて。
そのまま右手をひらひらと振って行ってしまう。
「・・・ったく、あんたはさぁ」
堪えきれずに。
俺はくつくつと喉で笑った。
お前は正しいって、そりゃ当然でしょ。
俺をそう教育したのは他ならぬ、あんたなんだから。
「あーあ。俺ってちょー不幸な役回りなんじゃねぇ?」
多分あんたのことだから、その組織脱出劇を見事やってのけてしまうんだろう。
それでもって俺は結局その後始末に負われることになって、忙しい日々を過ごすことになるんだろう。
ボスの機嫌を取って、剛の機嫌を取って。
全く、とんだ面倒を押し付けてくれるもんだ。
うちのナンバーワンは。
「さって、と。それじゃー今のうちに引継ぎ資料でも作っておきましょうかねー」
結局のところ。
俺はあの人も、それに剛のことだって本当は大好きだったりするわけで。
ただそれを素直に表現できる年齢ではなくなってしまったことに、ちょっとした寂しさを感じるのは自分勝手な感傷だろうか。
でも、だからこそ。
俺は俺のやり方で、あんたらの幸せを願うよ。
大事な大事な、家族の幸せを。
多分、この世界中の誰よりも、ひたすらに。
END.